一緒に
2006-10-17
山家を出た私達は大きく伸びをした。
「あーっ、空気がうめーっ」
囲炉裏の火は私が泣き止む頃には木片の大部分を残して消えていた。湿気が溜まっていた部分もあったのだろう。私も一郎も頭が朦朧としかかっていた。
山家には雪の中、来る事はもうないだろうと、血痕らしき跡を最後に見直した。横木近くのものには、飛び散った後、何かで擦ったかのように伸びているのがあった。出血した本人の仕業か、別の者の仕業なのか。判別出来ず、結論を後にするしかなかった。
登ってきた雪跡を前にして私は深呼吸した。
目の前に立つ雪面よりも明るい背を見詰めた。
くるり、と振り向かれ、視線を伏せた。
「一郎。学校はどうした」
「何だ?いきなり。説教か?」
「一日二日の欠席なら大事ないが……」
「心配してんのか?」
「当たり前だ」
「始めから高校には進学してないから大丈夫」
「そうか。……え?」
「一年近くずっとバイトしてた」
「……他に何かやりたい事が?」
「神泊神社に払うお布施」
魂消た。
思考の回路が一瞬、閉じたくらいだった。
一郎が言っているのは、神社に支払う宿泊費等の事だろう。他に宿泊施設は近くにはなく、神社も泊めるからには貰うものはきちんと貰う。
神事に参加する為に滞在した他の参詣者にも、金額はまちまちだが、きちんと納めさせていた。それと、神事の際の奉納金。一月やそこらで稼げる額ではなかった。。神泊神社の生計は主にそれらで成り立っていると言っても過言ではない。
前々から考え一年前から実行してきたなら計画的と言えなくもないが、ここに来る為だけに高校入学を棒に振ったのであれば、向こう見ずもよいところだ。
これでは、親御さんの心労が耐えまい。
「勿論、進学しないのは反対されたよ。だけど親父もお袋も、お前とご両親をずっと気にかけてたし、前々から一度様子を見に行くと言ってあったし、行くと通したら最後は行って来いと言われた。自分達が行くよりも、子供の俺が行く方が、波風が立たないってさ」
逆だろう。それは。
何故そんなにも私達一家を気にかけるのか。
初音一家は揃いも揃って変わっている。
「気が済む迄戻ってくるなって、追い出されたよ」
「え?何?……ああ」
悪びれなさと頑固な意思を感じ、彼の両親の心境を悟った。
「好きなだけ走らせて、バテたところで捕まえる。無理に捕まえようとすれば、却って暴れ、怪我をさせてしまうからな。放っておいても満足いくまで走れば、何事もなかった顔をして大人しく帰ってくる」
「あ?何の話だ?」
馬を持っている信者から聞いた話だった。一郎には当らずも遠からずだろう。
「俺の人生だ。俺が決める」
堂々と言う声に、心配する私の方が気圧された。
「頼みがある。一郎に」
「帰れって言うなら、断る」
「禊の時間はとうに過ぎた頃だ。私達がここに居るのはもう知れているだろうし、下りてくるのを村人達が待ち構えているだろう。喧嘩腰にならないで欲しい」
「何?クソムカツク村人達とにこやかに話を進めろってか?」
「四年半前に神事を受け、合わなかった子供だと知ったら、即追い出そうとするかもしれない」
「待て待て。それって……。俺に、傍に居て欲しいからって事?」
「そ、そう、……だ。居てくれるのは心強いが」
「分った!その言葉が聞けただけで俺は満足だ」
うきうきとした足取りで一郎は山を下り始めた。
この背を再び見る事になろうとは……。
山家を訪れた時とは違って私は、心強さの中に懐かしさを感じながら彼の後を追った。
つづく『傷痕1』へはこちら
「一日二日の欠…欠、勤」じゃない。
マジで欠席の言葉が浮かばなかった管理人。
仕事中毒一歩前!?(って、これしきの事で)
学生時代は遠い過去!?管理人に肩叩きのポチ↓☆


ありがとうwいつもすまないねぇ……
次回は『傷痕』
村人と向き合い、そして……居ないと思っていた人が一人登場します。
第三章へは、まだ少し間がありますです^^;
「あーっ、空気がうめーっ」
囲炉裏の火は私が泣き止む頃には木片の大部分を残して消えていた。湿気が溜まっていた部分もあったのだろう。私も一郎も頭が朦朧としかかっていた。
山家には雪の中、来る事はもうないだろうと、血痕らしき跡を最後に見直した。横木近くのものには、飛び散った後、何かで擦ったかのように伸びているのがあった。出血した本人の仕業か、別の者の仕業なのか。判別出来ず、結論を後にするしかなかった。
登ってきた雪跡を前にして私は深呼吸した。
目の前に立つ雪面よりも明るい背を見詰めた。
くるり、と振り向かれ、視線を伏せた。
「一郎。学校はどうした」
「何だ?いきなり。説教か?」
「一日二日の欠席なら大事ないが……」
「心配してんのか?」
「当たり前だ」
「始めから高校には進学してないから大丈夫」
「そうか。……え?」
「一年近くずっとバイトしてた」
「……他に何かやりたい事が?」
「神泊神社に払うお布施」
魂消た。
思考の回路が一瞬、閉じたくらいだった。
一郎が言っているのは、神社に支払う宿泊費等の事だろう。他に宿泊施設は近くにはなく、神社も泊めるからには貰うものはきちんと貰う。
神事に参加する為に滞在した他の参詣者にも、金額はまちまちだが、きちんと納めさせていた。それと、神事の際の奉納金。一月やそこらで稼げる額ではなかった。。神泊神社の生計は主にそれらで成り立っていると言っても過言ではない。
前々から考え一年前から実行してきたなら計画的と言えなくもないが、ここに来る為だけに高校入学を棒に振ったのであれば、向こう見ずもよいところだ。
これでは、親御さんの心労が耐えまい。
「勿論、進学しないのは反対されたよ。だけど親父もお袋も、お前とご両親をずっと気にかけてたし、前々から一度様子を見に行くと言ってあったし、行くと通したら最後は行って来いと言われた。自分達が行くよりも、子供の俺が行く方が、波風が立たないってさ」
逆だろう。それは。
何故そんなにも私達一家を気にかけるのか。
初音一家は揃いも揃って変わっている。
「気が済む迄戻ってくるなって、追い出されたよ」
「え?何?……ああ」
悪びれなさと頑固な意思を感じ、彼の両親の心境を悟った。
「好きなだけ走らせて、バテたところで捕まえる。無理に捕まえようとすれば、却って暴れ、怪我をさせてしまうからな。放っておいても満足いくまで走れば、何事もなかった顔をして大人しく帰ってくる」
「あ?何の話だ?」
馬を持っている信者から聞いた話だった。一郎には当らずも遠からずだろう。
「俺の人生だ。俺が決める」
堂々と言う声に、心配する私の方が気圧された。
「頼みがある。一郎に」
「帰れって言うなら、断る」
「禊の時間はとうに過ぎた頃だ。私達がここに居るのはもう知れているだろうし、下りてくるのを村人達が待ち構えているだろう。喧嘩腰にならないで欲しい」
「何?クソムカツク村人達とにこやかに話を進めろってか?」
「四年半前に神事を受け、合わなかった子供だと知ったら、即追い出そうとするかもしれない」
「待て待て。それって……。俺に、傍に居て欲しいからって事?」
「そ、そう、……だ。居てくれるのは心強いが」
「分った!その言葉が聞けただけで俺は満足だ」
うきうきとした足取りで一郎は山を下り始めた。
この背を再び見る事になろうとは……。
山家を訪れた時とは違って私は、心強さの中に懐かしさを感じながら彼の後を追った。
つづく『傷痕1』へはこちら
「一日二日の欠…欠、勤」じゃない。
マジで欠席の言葉が浮かばなかった管理人。
仕事中毒一歩前!?(って、これしきの事で)
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次回は『傷痕』
村人と向き合い、そして……居ないと思っていた人が一人登場します。
第三章へは、まだ少し間がありますです^^;
