神が泊まる村

蓋を開けたのは誰?  陰(いん)の闇が溢れた。 長編小説連載中。

傷痕10

 私と冬季は二階に向かった。一郎は一緒ではなかった。
「初音さんは後に呼ぶ、との事ですの」
 一郎は喜右ヱ門に連れられ、一階の応接室に通されていった。遠巻きながらもその周りを姥様の息子達が固めた。一郎は私の方を窺いながらも、足音も荒々しく、部屋に入っていった。年老いた老女の息子だから老いの年齢も居たが、働き盛りの年齢も混じっている。
 武道に長けているといっても、ああも警戒した人間に囲まれては暴れようにも暴れられまい。

 姥様は自室で待っていた。
 奥の間と次の間との、二部屋で成っている。はじめの部屋に入ると、 奥の襖は閉じられており、私達は歩を進めると閉じた襖を前にして挨拶を告げた。

 私一人が中に呼ばれ、冬季は次の間で待たされた。
 さほど広くない部屋であり、襖一つである。話の内容は冬季にも聞えるだろう。

 閉じた襖を背にして私は、正座で頭を下げた。

 正午をとうに過ぎている。
 なのに、暗い。
 次の間もそうだったが、姥様は雪明りを嫌う質で、東西にある窓の障子は閉じられていた。雪のある時期は通してそうされる。電灯も点されていなく、夕まずめのように薄暗かった。畳敷きの和室で、北側に大きな水屋箪笥や薬棚などが置かれ、それがいや増しに古風な雰囲気を醸し出している。その中央の奥に、小さく、正座姿の姥様が居た。
 上体を倒しているのか俯いているのか、いつもより小さく、苔生した岩のように静かだ。
 お呼びと聞きましたが、なりとこちらから声をかけるべきだろうが、考えるところがあったので黙っていた。
 互いに声もかけず、居るか居ないかの静けさを保った。

「血の跡は見付けたか」
 嗄れた声が掛けられた。

「あれは、誰のものでしょうか」
 余計な事は一切省いた切り返しが大事だと思えた。
 やはり姥様は全てを知っておられる。
 気後れせず問い質すには、余計な事は無用。
 真実を得る為には、的を射つつも射過ぎない構えが必要。

「ふん」
 姥様は、一寸ばかり身を起こした。
「家財を運び出す時、自在鍵を天井から外そうとして、村人の一人が負いたものよ。誰、とは気遣いせん。血は不浄よ。お前(め)をやらなんだのも、不浄に関わらせんが為。それが分らぬ子供でもあるまい」

 姿勢も変らず淀みない応え。

「喜右ヱ門の母が何故、私の両親と共の場で見付かったのでしょうか」

「ふん。やっど、訊いだが。昔の事なぞ、その口がら終ぞ出ねがっだのによ。あの子供の所為がぁ」

 一変して姥様の口調が村人に対する時と同じものになった。
 子供、とは一郎の事……か。

 笑い声が立った。

 石臼をゆっくりと回した時に立つ音のようで、忍ぶとも笑うとも言い難い音声。
 感情など読み取るべくもない。

 姥様は徐々に収め、常と同じ口調で続けた。
「あの夜(よ)の騒ぎは、誰よりもお前が良ぐ知っでおろうが。気付いだらここサ居なんだ。よって、当人しか知らね事。どうして我(わ)が知ろうかよ」
「……私は……、藤仁さん、雪子さんの本当の子供なのでしょうか」
「何故、疑う」
「両親であるのに、家の外では名前で呼んでいました。思い出して、不思議に思いました」
「ふん。それこそ、当人しか知らね事。あの女の股から産まれたのは確かども、誰ど仲良ぐすてたなぞ、我が知ろうか」
 畳についた手を、ぎゅっ、と握り込んだ。
 犬畜生の行為に向けるのと変らない悪意を感じた。
 母はそんな女(ひと)ではないっ。その言い方はないだろうと、寸で、叫びそうになったのを耐えた。
 かつてこの神社に関わり、期待を裏切るような事をした父だけでなく、母も嫌っておいでなのか?本当に神泊の血筋なのか?何故、何の目的で神社に囲う?
 一気に疑問が湧いてで惑っている内に、姥様が立ち上がった。
「姥様」
 慌て、頭を下げたまま呼び掛けた。
「口説い」
「っ」
 反論を認めない短い声に、身が固まった。
 ゆるゆると姥様は歩を進めた。発せられる声とは逆にするりと圧迫感もなく傍に立たれた。

「両親を亡ぐしたお前を哀れど思っで、我は引き取っだど」
 頭を垂れた上に声が下りてきた。
「……のう」
 姥様は顔を襖に向け、続けた。
「お前にとっても神事は大事じゃろう?」
「……っ」
 冬季に言っているのか?否。私に、だろう。

 神事を断れない理由を悟られてる……っ?

 畳の上の拳を、更に強く握り締めた。
「ならば、分っておるな」
「……一郎は……。彼は追い出すのですか?」
「身勝手を言(へ)るの。あの子供は駄目だ。村サ荒らす」
 姥様は冬季の名を呼んだ。
 襖が開かれるのと、低頭のまま私が叫ぶのは、同時だった。

「村を出ますっ」
「光希!?」
 冬季が私の両肩に取り付いた。が、それを振り払い、立ち上がった。
「村を荒らすとおっしゃる彼は私にとって掛買いのない友人ですっ。遠ざけるとおっしゃるならば、私も村を出ますっ」
「馬鹿なっ。光希っ」
「冬季も訊いていただろうっ。私の素性は何一つはっきりしないのだっ。そんな私が何故ここに居るっ」
「……」
 私は下方になった姥様を、キッと睨み据えた。
「真に私を想ってくれるのは……最早、一郎だけだっ。違いますかっ?」
 姥様は緘黙(かんもく)で応えた。
 身体を昂った感情で震わせた私の肩を、冬季が心身共に抑えるように力を籠めて掴んだ。

 忌み嫌う者の子を養子にして嬉しいわけがない。

 歯を食い縛り、姥様の反応を待った。
 姥様は嫌々しく背を向けた。
「あの女そっくりじゃの」
「……っ。母を侮辱するなっ」
 激情に任せ、小さな姥様に掴み掛かろうとした。が、手が掛かる前に眩暈が襲った。
 どっ、と横様に床に崩れ落ちた。

「光希っ」
 身体が激しく揺す振られ、朦朧とした頭に二人の声が響いた。
「益の無い子よ」
「光希には……。姥様」
「余計な事だろが。出来るだけ二人にづけ。村がら出すな。元より……離れる事など出来ねど思うがよ。……分ってるな」
「はい」
 冬季の無感情な返事が空虚な穴を私の胸に穿ち、傷を疼かせた。

 この村に味方は居ない……。

 伏している畳の下、階下に居るだろう彼の姿を思い浮かべたところで意識が途切れた。




「目覚め1」へつづく



う〜ん……。ごめんなさい。(←いきなりなんだ)
光希が最後思い浮かべたのは、当然一郎であるような書き方ですね。
え。違うんです。いえ、まるきり違う訳ではないです。
一郎を思い浮かべつつ、もう一人を思い浮かべてます。
(浮気性と読んでやって下さい)
社務所の造りがどうなっているのか、徐々に、
光希、一郎の腰が落ち着いたところで、それも同時に分るかと。
引っ張りすぎて、ブログ向けじゃないなーと思う。(うんうん)
けど、ま、いっか。(←おい)

次回は、第三章に入ります。
説明調のセリフが多くなりますがご容赦を。
(この上、何を説明するんだか)


傷痕9

「光希。お前、神事で何をやってんだ」
「お前には関係ない事だ」
冬季が応えた。
私は早々に上がろうと手を浴槽の縁に掛けた。一郎の熱い手が押さえ、止めた。が、それを払った。
「それは、話せない。……ご免」
今度は右肩に触れてきた。
「何だ……。これは」
「え?……何?」
「湯に浸かって温まったからか?古傷のようなのがうっすらと赤く……」
咄嗟に思い当たり肩を押さえ、飛沫を上げて体の向きを変えた。冬季の手が伸び、後ろに追いやったので、私は湯の底に手をついた。
「あの傷は何だ?切り傷じゃねぇ」
一郎と冬季が湯の中で立ち上がり対峙していた。
「まるで噛み付かれたようなモンだ。それも人間のだ」
「お前には関係ない、と何度言わせれば気が済む」
「はっ。光希っ」
「一郎には関係ないっ」
二人が対峙している間に私は浴槽を出ていて、脱衣所に戻ると扉を閉めた。
「光希様?今、怒鳴られ……て?」
廊下側の扉が開き、三人分の着替えを抱えた喜右ヱ門が現れた。
体の湯を拭いて私は、奪うように着替えの着物を受け取り羽織った。
「光希っ」
近くから鋭く呼ばれて振り向くと、一郎が追ってきていて冬季が浴室の狭い戸口で止めていた。
「この考えなしがっ。無知で追い詰めるなっ」
「てっめぇ、知ってやがるなっ。あの噛み傷はてめぇのかよっ」
「違うっ」
「冬季は関係ないっ。下手な言いがかりをつけると絶交するぞ!」
言い捨てて私は、脱衣所の引き戸を開いた。怒鳴ったのがまずかったのか、眩暈がした。
「光希様っ?」
立っていられなくなり、ずるずる、と戸に縋って腰を落とした。
「光希っ」
一郎が駆け寄ってきて上体を起こしてくれた。額に掌を載せようとしたが、追いかけてきた冬季がそれを払い、代わりに乗せた。
「熱がある」
「本当かっ」
「大丈夫」
「えっ。熱っ」
大変だ、と喜右ヱ門が腰を浮かした。
「姥様に知らせてきますでのっ」
「待てっ。喜右ヱ門っ。姥様が……、呼んでいるのでしょうっ。行くからっ」

三者三様の戸惑った声を上げられたが、私はふらつきながらも二階を睨みすえ、立ち上がった。



つづく


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週明け、風邪でダウンした人が多いです。
一歩先に済ました管理人は先駆者?(つーか、菌をバラまいた?)
皆さん、くれぐれもお大事に、です。

傷痕8

「昔は姥様が神主で神泊りの神事をなさっておいでだったが、現在は宮司になっている。ここの宮司は、余所の所と同じく、神社の事務や采配をするのだ。それに対し、ここの神主というのは、神泊りする人間を、そう、呼ぶ」
「はーん」
 気の抜けたような声で一郎は応え、
「古代の祭礼のようだな……」
 と、ぽつりと呟いた。

「何?」
 冬季が訊くと、説明し始めた。
「古代の神道ではよ。神にお伺いを立てての託宣をしたりする人間と、祀りを執り行う中心の人物と、そのどちらとも区切りなく、神主と呼んでいたそうだ。まぁ、呼び方は様々だったようだが、神に関わる神聖な者としての立場は変わらないな。別に巫女とか市子と言う存在も居たが、その多くはその土地に定住しない流れ者で、呪術的な色合いの濃い、それ専門の存在に終始し、土地に根付いた神主とは別扱いだった。次第に祭式が整ってくると神主は、神社管理専門の人間がやるようになり、今では光希が言った通り、常に神社に居て、神社を運営する人間を宮司と呼び、正式には神主とは呼ばない。だが、神主の方が親しみやすいから、一般では、そう、呼ばれる事の方が多いそうだ」
「……お前も神職希望なのか?」
「ふふっ」
 冬季が私と全く同じ事を口にしたので、笑ってしまった。冬季が、何だ、と訊いたので、一郎の幼馴染みの事を教えた。
「何だ。借り物の知識か」
 あからさまに人を馬鹿にしたような事を言った冬季を、私は咎める声で名を呼んで止め質問した。
「今の神主が誰だか知ってるよね」
「ああ」
「宮司にはなられないのだろうか?」
「神泊り、と言う神事は、今の時代、長続きしないだろう。それに肝心の方が神職の資格をお持ちではないしな。……これからはどうか分らないが」
「そうか。……神泊りはなくなる……だろう」
「私が宮司になれば、神事に参加しなくても済むようにしてやる」
「え?」
「その為に、早く仕事を覚えよう」

 項垂れて礼を言うと、湯の面が激しく叩かれた。



つづく


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のんびりした入浴シーンにならなくて(−x−;)
次回、「あ、こんなところにホクロ♪」ではなく、
「ここにも傷が!」をお送りいたします。
白い裸身に傷萌え。趣味丸出し

傷痕7

 冬季は神事がどんなものであるかを知っている。
 不在にしていた四年。ずっと村に居た私の身に何があったのか、全て悟られたように感じて益々私は湯の面に顔を伏せた。

「何の傷だよ。光希。おい」
 知っている事の差がある一郎が苛々として訊いた。
「お前には関係ない」
 冬季が代わって応え、
「あ?」
 と、一郎が凄んだ。
 再び雰囲気が険悪になった。

 ここで喧嘩など始められては、堪ったものではない。

 私は慌て、話題を逸らすべく、冬季に向かって訊いた。
「聞いていなかったけれど、いつ戻ってきたの?」
「つい先程だ」
「学校は?」
「光希」
 冬季は僅かに笑みを含んだ息を漏らした。
「今日は日曜だ」
「あ、そ、そう、か」
「今期の神事には予(かね)てから、来る事になっていた。……だが」
 冬季は顔を一郎に戻した。
「今朝方、急遽、村に来るよう、神社から連絡を受けた」
「どうやら暫く見ない内に、すっかり村の腰巾着に成り果てたようだなぁ」
 迎えて一郎がすっかり喧嘩腰になった。
「誰も彼にも、そう噛み付くな」
更に慌てて一郎に釘を刺し、続けて冬季に質問した。
「では、暫くここに居るの?すぐ帰るの?」
「神事期間が過ぎる迄、居る。高校には、ここから村の車の送迎で通う」
「ここから近いんだ、高校」
「……近くはない。だが、今期だけでなく、これからの神事期間は、出来るだけここに居るようになる」
「え。何で?まさか、冬季も神事に参加するの?」
「しない。私は……」
 冬季が一郎の方を窺うように向いた。

 神事の事を話して良いか迷ってる?

 神懸かりにも似た神泊りの事を一郎に教えた事を、私は冬季に話した。
「こいつに話したのか?」
「支障ない程度。受ける人にはしている説明だ」
「そう言えば経験者だったな。……神泊りの才能は私にはないが、神事の裏方を務める。それと、事務、か。覚えるようにと言われている」
「何だ?お前。将来、神職に就くつもりか?」
「そうだ」
 短く応えて冬季は、顔を私に戻した。
「姥様は将来、私を宮司にするおつもりだ」
「えっ」
「おいっ。ここは神泊りする奴が、神主になるんだろ?」
「うん。一郎。ここは、宮司と神主の両方が居るのだ」



「傷痕8」へはこちら


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「宮司と神主の両方が」ハテハテ?と思われた方、
次回で説明します。多分(←おい)
地味に投票が増えてます。有難いです。ありがとうですっ。
喜右ヱ門。初回の登場から、昔話で随分と態度が違っちゃって♪
昔はあんなだったのに、今はこんな☆みたいな。
これから前へと進もうとする光希とは逆に、
エモンの足はがっちり止まってしまう予定で……。
喜右ヱ門ファンの方にはすみません。
(何故か喜右ヱ門の名が姥様の次に検索ワードに出され……
何でやねん。とちょっぴり嫉妬気味な管理人^^;)


傷痕6

 鳥居に辿り着くと、私達は参道の坂を上り、村人達は潜らずに退き各々の家に帰った。
 社務所に向かい、喜右ヱ門に急かされて禊(みそぎ)用の湯殿に入った。

 村人の全員が使う物でもあり、薪焚き式の五人くらいは楽に入れる大きな檜風呂だ。禊と言っても、何も水でやると決まっている訳ではない。我慢大会でもないので、雪のある季節は沐浴する事が禊になっている。
 冬季が近くの家屋に寄る事を提案せず、神社に、と言ったのも、禊の後で湯が残っており、三人ともすぐ湯に浸かれる事を考えての事だった。ぬるくはなっていたが、外で薪が焚かれ、熱い湯が注がれた。

「光希様を姥様が呼んでおられたけんど……。ゆっくり温まりなさっての」
 喜右ヱ門は、私達が湯に入るのを見届けると、着替えを用意すると言って姿を消した。
 心ここにあらずといった慌てた足取りから、事態を報告するのも兼ねているのだろう。

「痩せたな、光希」
 湯に入りながらも未だ体を震わせていた私の肩に、冬季の温まった手が触った。
「そう……か?」
「そうだよ。痩せ過ぎだ」
 すぐさま一郎が同調した。縁に腕を乗せて正面を向いた格好で、早くも寛(くつろ)いでいる。

 人の気も知らないで……。

 姥様が桃花の御機嫌取りだけで、これ以上動かない、と言う筈は、ない。
 四年前の事がある。ましてや潔斎が始まったばかりだ。不穏をもたらすであろう者を留め置くなど、一時だけの処置だろう。
 私とて、血痕らしき物を見た後である。昨日迄のように、見て見ぬ振りは出来ない。
 山家に私が帰った事をどのように考えているのだろうか。
 血痕の事を訊ねれば、どのように応えるだろうか。
 どう出るか。それにはどう、対応すれば良いのか……。
 考える事は山積みであるのに、まるで自宅であるかのように寛いでいる一郎の態度が理解できず、癪にも障った。

「背は伸びたが、筋肉が全く無ぇ。どんな食生活してんだ」
「普通だ」
 私は、むっとして応えた。
「光希。この傷は何だ?」
 冬季が私の背中を覗き込んで訊いてきた。
「あ、うん。それは……」

 幾筋もの大きな古傷が、私の背中にはあった。

「俺も気になってた。切り傷、だな。それは。昔は無かった筈だ」
「……いつ見たんだ」
 冬季が訊くと、光希が見せたんだ、と一郎は応えた。
 私は湯の中、膝を抱えて頭を伏せた。
 間違いではないが、正しくもない。他に言い様はないのか。

「光希」
「え。ああ。これは、一昨年……の秋、に」
「……そう、か」

 冬季の声には無感情ながらも、僅かに恐怖が窺えた。




つづく


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設置した投票に早速☆票が☆ありがとうございますっ!!
「村人の誰か」を選びなさるとは。
冒険しろよ!バシッ((o(~◇~)
票をそこに入れるのはお見通しだぁ☆

暫く振りの社務所。季節感が狂い気味の管理人。
小説内では、春が来るか来ないか、二月の中旬ごろ。
……の設定だった気がします。このペースじゃ、
連載が終わる前に季節に追い抜かれるぞ!?
ホームベースにしているブログの方も更新を始めたので、
不定期な更新になるかもですm(_ _ )m

傷痕5

「もう一度言う。村を出て行け」
「能面みたいな面しやがって。相変わらずだな!おい!」

 ドッ

 体と体がぶつかり合う音がした。
「いつから村の使いっパシリになったよ!」
 一郎が掴み掛かり、即座に冬季も応戦していた。
「一郎!止めろ!」
 二人は手が出せないほどの激しい攻防をしながら雪面を移動した。
 雪道に慣れていない一郎が、足を滑らせて転んだ。くそっ、と一郎は短い声を出し、手をついて体を起こそうとした。が、その体が僅かに沈み込んだように見えた。

 あっ。そこはっ。

 咄嗟、私と冬季が同時に手を伸ばし、一郎を助けようとした。

 山間や山の近くの村では、水が不足がちになる事が珍しくない。それを防ぐ為に、湧き水や雪代水を一ヶ所に溜めておく、水の流れの弛(たる)みがあちこちに設けられている。そうする事により、冬、流れが雪の下になるのを防ぐ役割もしていた。
 一郎が倒れた所は、丁度、庇(ひさし)のように池に迫り出した雪の上で、下は極寒の水だ。

 一郎の腕を私と冬季がそれぞれに掴んだが、その時には既に雪の中に埋もれ消えていた。
 私達は引き摺られ、縁の雪が更に落ち込み、水中へと落ちた。

 四方から、雪が襲い、気が遠くなる程の冷たい水に襲われた。瞬時に手足が強張り、刺すような冷たさに目も開けられない。
 存外、池の水深は深い。
 雪と水を掻き分けながら、私は水面に顔を出した。辺りを見回すと、殆ど同時に、二人が顔を出した。動きはぎこちないが、泳げるようだ。が、光量が極端に少ない。
 まずい……っ。早く水から上がらないと。
 縁が雪で滑り、陸(おか)も高く、上手く上れなかったが、上の雪面から喜右ヱ門と村人皆が助け、私達も互いに助け合って上がった。

「馬鹿光希っ。落ちてどうするよっ」

 上がった途端、一郎に怒鳴られた。
 私は凍え、口など利けるものではなかった。
「怒鳴るな……。神社に、行こう。喜右ヱ門」
 同じように歯の根が合わない冬季が、無理して言った。
「毛布サ持ってこ!皆!早く早くっ」
 喜右ヱ門が一番慌て、言うと、泡食った村人達の数人が転びそうな勢いで自宅へと走った。
「死んでしまうの!」
 私達三人は上着やらタオルやら毛布やらで達磨(だるま)の如く包まれ、急ぎ急(せ)かされながら神社に向かって歩き始めた。



つづく


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風邪をひいたのは私だけじゃなかったようで。
マスク人口が社内で増加してました。
それとも一部だけのデンセンビョー?(おいおい)


光希、やっと神社に戻ります。
朝出てから半年は経っ……
姥様がてぐすね引いて待っている神社へ……
その前にお風呂タイム☆です。

傷痕 4

 一郎の神事の時の記録の一部だろう。喜右ヱ門は一郎に向かって続けて言った。
「適応しない者が再び戻ってくるとは。何の用か」
 普段からは想像も出来ない程の強い姿勢だった。
 村頭は、今度は止めず、静観している。その態度に呼応するように、村人達の雰囲気が一郎に向けて圧迫するものへと変わってゆく。
「喜右ヱ門」
「光希様はこの村に合わぬ童に流されておる」
 矛先を変えようと名を呼ぶと、村頭に止められた。
 喜右ヱ門は代々神泊神社に仕えてきた神奴(かみやっこ)。そういった者であるという事を改めて知らされ、かつて村中から疎外されていた私との立場の違いを思い知らされるようだった。

 一郎は腕を組み、無言でいた。
 昔のように食ってかかるような様子ではない。しかし、激した時とその光の輝きは全く同じで、無言がかえって怖く感じられもする。
有事になる前にと、
「姥様は」
 一時留め置けと言った姥様の言葉を思い出させようと言いかけると、冬季の手によって目の前に紙片が差し出された。

「神事失敗……」
 喜右ヱ門の手書きの字が読め、先程喜右ヱ門が言った通りの言葉が書き綴られていた。
「男子、適応せず。為す術無し。村外退去を勧めしも、光希これを助け、後村外……退去」

 神社に……知られていた!?誰かに見られていたのかっ?まさか、なごし、が?
 一郎から私へと村人達の注意が変わってきたが、安心してもいられなかった。
 なごしに他言無用と約束させられたのだから、当然相手もそうするのだろうと思っていた。

「光希これを助け、とあるが、何をしたんだ?」

 冬季が訊いてきたが、それを教えている余裕は、私にはなかった。
 誠実だと思っていた人に突然裏切られたようだった。
「光希?」
 顔色が変わっていたかもしれない私を訝しむ冬季を脇に、村人達を見回した。

「なごしとは誰です!?私を神社に連れて行った人は、なごしでしょう!」
 問い掛けをぶつけると、知らね知らねと、村人達は口々に呟き、恐ろしいものでも避けるように顔を背けた。
「この村になごしという者はおらんの」
 村頭が断定すると、個々に村人達は頷いた。
「居もしない人の名サ叫ばれても困りますでの。光希様」
 宥める様に言う喜右ヱ門に、目の前が暗くなった感覚に陥った。

 助けを求めるように一郎を見た。
 いつの間にか冬季が一郎の前に進み、対峙していた。




つづく


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ちょっぴり昔風な日本を舞台にした、 オリジナル小説を連載しています。

管理人、出現率が悪いです…。

それでも興味のある方、 ちょっぴり立ち寄っていただければ、幸いですw

新しいPCの画面では文字が見づらくて、 またまたテンプレ変えました;

 
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登場人物紹介
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神泊(旧・月森) 光希

初音 一郎

神泊喜久枝 (姥様)

斎 喜右ヱ門 (エモン)

月森 冬季

神泊 桃花

『神が止る村』 相関図
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『神泊村』相関図


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