昼休み 4
2006-12-11
「神道に於いて、生身でありながら神と同等のような立場におられるのは、天皇陛下とその御家族だけだ。しかしながら日本の国全体を守る神を祀る祭祀者に止まる。最高者は地上には居ない。であるから生きながらの至高の存在、生き神を祀るのは、村単位であっても、神社ではやってはならぬ事だろう」
「やっぱりどっかの神社で、子供を依代にしてっトコがあるって聞いた事があるが」
「一郎が知っているくらいならば、それなりの歴史があるところだろう」
「それなり?」
「長い歴史という意味だ。祀る神にも格があり、上の格である程、信者も多く信奉も厚くなり、歴史も長い。自然、神との縁(えにし)もあれば信憑性も増すというもの。だがそれを説明するには、神代の長い話をしなくてはならないし、信仰の深さや信者達がどのように祀ってきたのかの歴史を知らなくてはならぬし、社が立派であればある程人と人の争いの陰がある。……余り話したくないのだが……」
和を尊ぶと言って止まない光希にとっては、神社同士の勢力争いやら権力争いの話は、語り辛いのだろう。
「俺も。長くなりそうで聞きたくねぇな」
そう応えると、話したくもあったのか、残念そうな顔を光希はした。
一郎には神を求める人達の心が理解出来ない。
「そもそも捧げられた供物を依代が食べて、それが祀りだって神経が理解しにくい。話の腰を折っちまったが、つまりここの神社は、それなりの歴史がない、と」
「由来も不確かな上に、神事の目的自体も公に出来ぬ。依代が供物を食すのは土俗の感があるだろうし、そういった意味でも外聞を憚る」
「ああ。だろうな」
「この神泊神社では神事中、神主が生き神のように扱われても、村を通る神の依代に過ぎず、時が過ぎれば只の人。そういった者に神饌(しんせん)を上げているのは如何せん秘事中の秘事だ」
「成る程。っつーか、何故、社務所に台所が二つあるのか分った」
「一つは家族用で、もう一つは神饌を調理する神聖な場所だ」
光希は苦笑して応えた。打って変わって気軽な雰囲気になったところからすると、機嫌を損ねかけていたのかもしれない。
「一郎は立ち入る事も許されていないだろう。特に今は禊斎中だから」
「俺は不浄ってか」
小さく声を立てて光希は笑い、それでも否定せず、私も入れないよ、と慰めるように付言した。その隣では、視線を足元に落として黙り込んでいる喜右ヱ門が居る。
光希の手を取った手に手刀で離された後からずっとだ。
光希はあの時も今のように笑っていたが、感情に走ってしまったのを止められた恥ずかしさからだろうが、喜右ヱ門は赤く染まった顔を気まずそうに背けた。果たしてどんな感情だったのか。
根が純朴そうな喜右ヱ門が自覚しないのを願うばかりと思っていたが、存外、ずっと口を挟まず黙り俯いている様子は、自制のようにも見える。
「一郎」
光希の声が注意を呼び戻した。
「お前がやっているのは神饌を運ぶだけか?」
「役目上は。たまに思わぬ事が起こったりする」
「どんな?」
「聞きたいか?」
「勿論。早く話せ」
急かす一郎に光希は笑った。
「時間が残り少ない。午後の奉仕が終わってからにしよう。長くなるだろうから、夕食を済ませてからの方が良い。我家(わや)に来てくれ」
分ったと一郎は頷いた。
止めに入らなかったな……。
変らず喜右ヱ門は俯いている。思い詰めた様な目と相まって、じっと俯いている様子が、深刻そうにも不気味でもあった。
つづきはこちら
「昼休み」の章、ここで終了です。
夜を一つ越える毎に展開が変わる予定のこの話、最終夜に向けての第一夜。
次の記事はその準備段階の記事になります。
初めての喜右ヱ門視点。ほのぼのになりきれない所がクセ者?
そんな彼に失態をさせようと、管理人、苦戦中 (>_<)
「やっぱりどっかの神社で、子供を依代にしてっトコがあるって聞いた事があるが」
「一郎が知っているくらいならば、それなりの歴史があるところだろう」
「それなり?」
「長い歴史という意味だ。祀る神にも格があり、上の格である程、信者も多く信奉も厚くなり、歴史も長い。自然、神との縁(えにし)もあれば信憑性も増すというもの。だがそれを説明するには、神代の長い話をしなくてはならないし、信仰の深さや信者達がどのように祀ってきたのかの歴史を知らなくてはならぬし、社が立派であればある程人と人の争いの陰がある。……余り話したくないのだが……」
和を尊ぶと言って止まない光希にとっては、神社同士の勢力争いやら権力争いの話は、語り辛いのだろう。
「俺も。長くなりそうで聞きたくねぇな」
そう応えると、話したくもあったのか、残念そうな顔を光希はした。
一郎には神を求める人達の心が理解出来ない。
「そもそも捧げられた供物を依代が食べて、それが祀りだって神経が理解しにくい。話の腰を折っちまったが、つまりここの神社は、それなりの歴史がない、と」
「由来も不確かな上に、神事の目的自体も公に出来ぬ。依代が供物を食すのは土俗の感があるだろうし、そういった意味でも外聞を憚る」
「ああ。だろうな」
「この神泊神社では神事中、神主が生き神のように扱われても、村を通る神の依代に過ぎず、時が過ぎれば只の人。そういった者に神饌(しんせん)を上げているのは如何せん秘事中の秘事だ」
「成る程。っつーか、何故、社務所に台所が二つあるのか分った」
「一つは家族用で、もう一つは神饌を調理する神聖な場所だ」
光希は苦笑して応えた。打って変わって気軽な雰囲気になったところからすると、機嫌を損ねかけていたのかもしれない。
「一郎は立ち入る事も許されていないだろう。特に今は禊斎中だから」
「俺は不浄ってか」
小さく声を立てて光希は笑い、それでも否定せず、私も入れないよ、と慰めるように付言した。その隣では、視線を足元に落として黙り込んでいる喜右ヱ門が居る。
光希の手を取った手に手刀で離された後からずっとだ。
光希はあの時も今のように笑っていたが、感情に走ってしまったのを止められた恥ずかしさからだろうが、喜右ヱ門は赤く染まった顔を気まずそうに背けた。果たしてどんな感情だったのか。
根が純朴そうな喜右ヱ門が自覚しないのを願うばかりと思っていたが、存外、ずっと口を挟まず黙り俯いている様子は、自制のようにも見える。
「一郎」
光希の声が注意を呼び戻した。
「お前がやっているのは神饌を運ぶだけか?」
「役目上は。たまに思わぬ事が起こったりする」
「どんな?」
「聞きたいか?」
「勿論。早く話せ」
急かす一郎に光希は笑った。
「時間が残り少ない。午後の奉仕が終わってからにしよう。長くなるだろうから、夕食を済ませてからの方が良い。我家(わや)に来てくれ」
分ったと一郎は頷いた。
止めに入らなかったな……。
変らず喜右ヱ門は俯いている。思い詰めた様な目と相まって、じっと俯いている様子が、深刻そうにも不気味でもあった。
つづきはこちら
「昼休み」の章、ここで終了です。
夜を一つ越える毎に展開が変わる予定のこの話、最終夜に向けての第一夜。
次の記事はその準備段階の記事になります。
初めての喜右ヱ門視点。ほのぼのになりきれない所がクセ者?
そんな彼に失態をさせようと、管理人、苦戦中 (>_<)
昼休み 3
2006-12-10
光希は一郎の手の届かない場所へと移動し、喜右ヱ門の両肩に手を置いた。
「喜右ヱ門。一郎に神事の事を話す前に、どうしても教えて欲しい事がある」
「何を……ですかの?」
「あの事、村人皆が既に知っているのだろう?」
喜右ヱ門は傍目から見ても分る程、硬直した。そして戸惑いの色を見せつつも頷いた。
光希の顔が強張っていった。
答えを予め予測していた訊き方だったにも関わらず、喜右ヱ門の肯定に改めて衝撃を受けたようだ。
「我は、喋ってはおりませんですの」
「分っているよ、喜右ヱ門」
ぎこちなく微笑み応えた光希の顔が、心なしかほんのりと朱に染まっている。
一郎は内心面白くなく、ふてくされた様子で二人を見ていた。
知られて恥ずかしい内容なのか?知ってんだな……、エモンは。だから光希は庇うのか?
喜右ヱ門は縋るような目をして光希の手を摂り握った。
「光希様。ならば……」
ビッ
手刀が鋭く二人の手の上に落とされ、切り離された。
「大仰な人情劇場かよ。とっとと始めろ」
腕を組みなおして一郎が傲然として言った。
二人は驚きを通り越し、呆気に取られた顔をして一郎を見詰めた。
睨み続ける一郎に、顔を背ける喜右ヱ門。
そんな二人の表情を視覚出来ない光希は、緊張が解れたように笑った。
「私は神泊りした神主に神饌をお持ちしているのだ」
「新鮮?」
「神が召し上がる、食事、だ。神棚にも上げているだろう?」
「ああ。酒なんかをな」
「神に捧げる食品の類いを神饌と呼ぶ。今朝話した通り、異例だがここでは、神事の時に神主を岩の代わりとして祀り、食事などを上げている」
「ん?食い物を神主が食うのか?」
「そうだ」
「生き神って奴?公明正大の神社で」
「いいところに気がついたね」
つづきはこちらになります。
「喜右ヱ門。一郎に神事の事を話す前に、どうしても教えて欲しい事がある」
「何を……ですかの?」
「あの事、村人皆が既に知っているのだろう?」
喜右ヱ門は傍目から見ても分る程、硬直した。そして戸惑いの色を見せつつも頷いた。
光希の顔が強張っていった。
答えを予め予測していた訊き方だったにも関わらず、喜右ヱ門の肯定に改めて衝撃を受けたようだ。
「我は、喋ってはおりませんですの」
「分っているよ、喜右ヱ門」
ぎこちなく微笑み応えた光希の顔が、心なしかほんのりと朱に染まっている。
一郎は内心面白くなく、ふてくされた様子で二人を見ていた。
知られて恥ずかしい内容なのか?知ってんだな……、エモンは。だから光希は庇うのか?
喜右ヱ門は縋るような目をして光希の手を摂り握った。
「光希様。ならば……」
ビッ
手刀が鋭く二人の手の上に落とされ、切り離された。
「大仰な人情劇場かよ。とっとと始めろ」
腕を組みなおして一郎が傲然として言った。
二人は驚きを通り越し、呆気に取られた顔をして一郎を見詰めた。
睨み続ける一郎に、顔を背ける喜右ヱ門。
そんな二人の表情を視覚出来ない光希は、緊張が解れたように笑った。
「私は神泊りした神主に神饌をお持ちしているのだ」
「新鮮?」
「神が召し上がる、食事、だ。神棚にも上げているだろう?」
「ああ。酒なんかをな」
「神に捧げる食品の類いを神饌と呼ぶ。今朝話した通り、異例だがここでは、神事の時に神主を岩の代わりとして祀り、食事などを上げている」
「ん?食い物を神主が食うのか?」
「そうだ」
「生き神って奴?公明正大の神社で」
「いいところに気がついたね」
つづきはこちらになります。
昼休み 2
2006-12-10
「止めろ。一郎」
光希が間に割って入った。
「止めろって、何だよ」
肩を押された一郎は喜右ヱ門と離され、舌打でもしかねない顔で下がった。
「無理に問い詰めるのを止めろと言っている。それに私は、喜右ヱ門には自分の意思で話して欲しいのだ」
「あのな。……甘いぞ」
「人を引っ掛けるのも、止めろ。そうされて嬉しい人間は、居ない」
「光希。俺は」
「駄目だ」
「……分ったよ」
「本当……か?」
「ああ。わっかりましたっ」
投げ遣りに応えると一郎が、光希は肩を落とした。
「全く……。悪知恵が働く小僧と一緒だ……」
「わーるかったですねぇ。姑息な悪知恵小僧で」
「他に比べる対象とは、それか」
「ああ。桃花ちゃんは女の子だが、昔のお前によく似てる」
「女の子と比べるのはどうか」
「負けず劣らず可愛かったぜ」
「私の父の顔も碌に覚えていないお前の言葉など、どれ程の信憑性があるか」
「お前の顔だけは良く覚えているよ。印象的だったから」
「主観だらけのお前の意見は当てにならん」
信用と共に意見も切り捨てられ、一郎は、がっくりとした。
どうやらすっかり光希の機嫌を損ねてしまったらしい。
そんなに喜右ヱ門が大事かよ……。尤も、いくら顔形が似てようが、決定的な証拠にはならねぇな。もっと確実な証拠が要る。
結局のところ水掛け論しか出ない課題に一先ず、心の中で終止符を打った。
しっかし、顔形がこの村の連中と似てるって指摘した時は、酷く動揺した癖に。桃花って子と似てるって事にもっと違う反応を見せてもいいんじゃないか?今一歩踏み込んで考えられないのか、まだ受け止められない何か不安な要素があるのか?
「……で、だ。一郎」
気を取り直した様子で光希が言い、一郎は思考を中断した。
「私が神事で何をしているのか、それを話そう」
「マジ!?」
「光希様っ」
「黙ってろ」
言うが早いか、喜右ヱ門の頭に一郎は拳を落とした。
「一郎っ」
光希の叱咤が飛んだのは言うまでも無い。
つづきはこちらになります。
光希が間に割って入った。
「止めろって、何だよ」
肩を押された一郎は喜右ヱ門と離され、舌打でもしかねない顔で下がった。
「無理に問い詰めるのを止めろと言っている。それに私は、喜右ヱ門には自分の意思で話して欲しいのだ」
「あのな。……甘いぞ」
「人を引っ掛けるのも、止めろ。そうされて嬉しい人間は、居ない」
「光希。俺は」
「駄目だ」
「……分ったよ」
「本当……か?」
「ああ。わっかりましたっ」
投げ遣りに応えると一郎が、光希は肩を落とした。
「全く……。悪知恵が働く小僧と一緒だ……」
「わーるかったですねぇ。姑息な悪知恵小僧で」
「他に比べる対象とは、それか」
「ああ。桃花ちゃんは女の子だが、昔のお前によく似てる」
「女の子と比べるのはどうか」
「負けず劣らず可愛かったぜ」
「私の父の顔も碌に覚えていないお前の言葉など、どれ程の信憑性があるか」
「お前の顔だけは良く覚えているよ。印象的だったから」
「主観だらけのお前の意見は当てにならん」
信用と共に意見も切り捨てられ、一郎は、がっくりとした。
どうやらすっかり光希の機嫌を損ねてしまったらしい。
そんなに喜右ヱ門が大事かよ……。尤も、いくら顔形が似てようが、決定的な証拠にはならねぇな。もっと確実な証拠が要る。
結局のところ水掛け論しか出ない課題に一先ず、心の中で終止符を打った。
しっかし、顔形がこの村の連中と似てるって指摘した時は、酷く動揺した癖に。桃花って子と似てるって事にもっと違う反応を見せてもいいんじゃないか?今一歩踏み込んで考えられないのか、まだ受け止められない何か不安な要素があるのか?
「……で、だ。一郎」
気を取り直した様子で光希が言い、一郎は思考を中断した。
「私が神事で何をしているのか、それを話そう」
「マジ!?」
「光希様っ」
「黙ってろ」
言うが早いか、喜右ヱ門の頭に一郎は拳を落とした。
「一郎っ」
光希の叱咤が飛んだのは言うまでも無い。
つづきはこちらになります。
昼休み 1
2006-12-10
「散歩に出ようぜ」
一郎は昼食後に光希を外へと誘った。
食卓に同じくついていた喜右ヱ門も。
三人には午後の奉仕までに30分余りの休憩時間が与えられている。
喜右ヱ門が居れば他に監視はつかないだろう。
食堂脇の炬燵のある和室には、先に食事を済ませた姥様の息子達の姿がある。声が聞えただろうに、寛ぎ続けている。
雪下ろし、薪割り、掃除、電球の取替えから障子の修繕等等。一郎はここ一月余り雑事を従順にこなしてきた所為か、自由時間はある程度好き勝手にされるようになっていた。光希にまとわりつくのも、かつて遊んだ仲だからという目こぼし的な雰囲気が感じ取れると思うのは、向けられる視線が一つや二つではないからすると、楽観的か。
見える所には居た方がいいな。
参道へと二人を一郎は連れていった。
中程で足を止める。見晴らしが利いて、遠くからの視認が容易な代わり、話の内容は聞き取れない。さて、と振り返ったところで、光希も話があったのか先に口を開いた。
「姥様の息子達が似ていない、と言っただろう?」
「あ?」
「あの方達はそれぞれ父が違うのだ」
「み、光希様」
喜右ヱ門が毎度の如くうろたえて止めに入った。
「すでに今朝、話したのだ」
諦めを促すかのような柔らかい笑顔で光希は応えた。
「村と神社の成り立ちの詳しい事を。こちらが話さずとも、大方察しはつこうというものだ」
そこまで予想出来ていたかどうか。喜右ヱ門の戸惑いは消えない。
「そうか」
一郎は、ポン、と拳を掌に乗せた。
「あの姥様とやらは、かつて神主をやってたって言ったっけな。神事で出来た子供なのか」
「夫もあり、その間に出来た子供もある。今は他界したその人、夫は村の者で、間に出来た子は全て早死にした。血が、近すぎたのだろう。識峰様を含め、今、社務所に居るのは、全て外の人の間、神事の時に授かった子供だ」
「あの、桃花って子は?誰の子だ?」
「識峰様のお子だ。神事とは関係ない。識峰様が神主になる前、若い頃にもうけた子供だ、と聞いている。そうだろう?」
最後、光希が喜右ヱ門に訊くと、神事と本当に関わりがないのか、へぇ、とした素直な返事がされた。
「我も、そう聞いてますの。桃花様は外で出来たお子さんで、母親は村とは関係ありませんの」
「じゃあ、何でお前と似てんだ?」
喜右ヱ門が、ぎょっ、としたように顔を一郎に向けた。
「もも、桃花様、が、光希様に?」
「あの子の母親は、本当に余所の人間なのか?」
「ほ、本当ですの」
「にしちゃあ、まるで他の血が入ってないような顔してるじゃねぇか。村の自家製だろ」
「何をっ。そっただ事っ。神泊の血サ濃いからだっ。他の血は負けてしまうんだっ」
「そうか。他の血が負けた父親似か」
「そうだ……の……?」
喜右ヱ門の顔が見る間に疑惑の色を浮かべ、凍り付いてゆく。
「他の血は負けてしまった顔をしている桃花様とやらと、光希、似ているよなぁ」
重圧をかけるように一郎が顔を覗き込んで言うと、喜右ヱ門は顔を背けた。
「……似てないの。お前(め)の錯覚だ」
「騙すのか。光希を」
あっと、光希が小さな声を上げたのと、喜右ヱ門がはっとして顔を上げたのは同時だった。
へっ。ちょろいもんだぜ。光希に対する従順さがどっからきているのか、分ったもんじゃねぇ。
信頼し合った者同士に見えても、喜右ヱ門は一郎にとって、秘密を抱えている疑いの対象であり、情報を引き出す格好の獲物でもあった。
つづきはこちらになります。
前回、一郎が言った他の対象、当たった人は居ましたでしょうか?
桃花の容姿を書いたところがなくて意外だったかも。(←載せる直前に気付いた^^;)
「昼休み」の章は四回に分けました。
一郎が何に迫り、何がうやむやになってしまったか。
勢いで進むのも問題児です(苦笑)
一郎は昼食後に光希を外へと誘った。
食卓に同じくついていた喜右ヱ門も。
三人には午後の奉仕までに30分余りの休憩時間が与えられている。
喜右ヱ門が居れば他に監視はつかないだろう。
食堂脇の炬燵のある和室には、先に食事を済ませた姥様の息子達の姿がある。声が聞えただろうに、寛ぎ続けている。
雪下ろし、薪割り、掃除、電球の取替えから障子の修繕等等。一郎はここ一月余り雑事を従順にこなしてきた所為か、自由時間はある程度好き勝手にされるようになっていた。光希にまとわりつくのも、かつて遊んだ仲だからという目こぼし的な雰囲気が感じ取れると思うのは、向けられる視線が一つや二つではないからすると、楽観的か。
見える所には居た方がいいな。
参道へと二人を一郎は連れていった。
中程で足を止める。見晴らしが利いて、遠くからの視認が容易な代わり、話の内容は聞き取れない。さて、と振り返ったところで、光希も話があったのか先に口を開いた。
「姥様の息子達が似ていない、と言っただろう?」
「あ?」
「あの方達はそれぞれ父が違うのだ」
「み、光希様」
喜右ヱ門が毎度の如くうろたえて止めに入った。
「すでに今朝、話したのだ」
諦めを促すかのような柔らかい笑顔で光希は応えた。
「村と神社の成り立ちの詳しい事を。こちらが話さずとも、大方察しはつこうというものだ」
そこまで予想出来ていたかどうか。喜右ヱ門の戸惑いは消えない。
「そうか」
一郎は、ポン、と拳を掌に乗せた。
「あの姥様とやらは、かつて神主をやってたって言ったっけな。神事で出来た子供なのか」
「夫もあり、その間に出来た子供もある。今は他界したその人、夫は村の者で、間に出来た子は全て早死にした。血が、近すぎたのだろう。識峰様を含め、今、社務所に居るのは、全て外の人の間、神事の時に授かった子供だ」
「あの、桃花って子は?誰の子だ?」
「識峰様のお子だ。神事とは関係ない。識峰様が神主になる前、若い頃にもうけた子供だ、と聞いている。そうだろう?」
最後、光希が喜右ヱ門に訊くと、神事と本当に関わりがないのか、へぇ、とした素直な返事がされた。
「我も、そう聞いてますの。桃花様は外で出来たお子さんで、母親は村とは関係ありませんの」
「じゃあ、何でお前と似てんだ?」
喜右ヱ門が、ぎょっ、としたように顔を一郎に向けた。
「もも、桃花様、が、光希様に?」
「あの子の母親は、本当に余所の人間なのか?」
「ほ、本当ですの」
「にしちゃあ、まるで他の血が入ってないような顔してるじゃねぇか。村の自家製だろ」
「何をっ。そっただ事っ。神泊の血サ濃いからだっ。他の血は負けてしまうんだっ」
「そうか。他の血が負けた父親似か」
「そうだ……の……?」
喜右ヱ門の顔が見る間に疑惑の色を浮かべ、凍り付いてゆく。
「他の血は負けてしまった顔をしている桃花様とやらと、光希、似ているよなぁ」
重圧をかけるように一郎が顔を覗き込んで言うと、喜右ヱ門は顔を背けた。
「……似てないの。お前(め)の錯覚だ」
「騙すのか。光希を」
あっと、光希が小さな声を上げたのと、喜右ヱ門がはっとして顔を上げたのは同時だった。
へっ。ちょろいもんだぜ。光希に対する従順さがどっからきているのか、分ったもんじゃねぇ。
信頼し合った者同士に見えても、喜右ヱ門は一郎にとって、秘密を抱えている疑いの対象であり、情報を引き出す格好の獲物でもあった。
つづきはこちらになります。
前回、一郎が言った他の対象、当たった人は居ましたでしょうか?
桃花の容姿を書いたところがなくて意外だったかも。(←載せる直前に気付いた^^;)
「昼休み」の章は四回に分けました。
一郎が何に迫り、何がうやむやになってしまったか。
勢いで進むのも問題児です(苦笑)
