神が泊まる村

蓋を開けたのは誰?  陰(いん)の闇が溢れた。 長編小説連載中。

喜右ヱ門 2

「光希様?それは」
 喜右ヱ門は、私の胸元を見て、何かを辿るように頭を上げた。

「抱えているその枝は……」
「あ。ああ……」
 改めて私は梅を眺めた。
 暗く堅い感じの光を放つ枝の先に柔らかく鮮烈な光を放つ花が一つだけついており、反対の切り口からはちろちろと清らかな光が流れ出ている。

「山の梅だと思う」

「山!?と言うと、御神体山ですかぁ?一体、誰がっ。手折ってくるようなバチ当たりな事を!そもそも雪が深くって入れやしませんよ。間違いないんですかの?いえ、光希様の目を疑っている訳じゃありませんよ?でもですね」

「桃花様が私の家(や)の外に置いていったのだ」
 朝の事を説明すると、憤っていた喜右ヱ門は急に肩を落とし、安堵に似た息を大きく吐いた。
「大袈裟だな、喜右ヱ門は。騒ぎ過ぎだよ」

「光希様が落ち着き過ぎるんです。それにしても、あの方の悪戯には困ったもんだの……」

「姥様に報告しに行ってくるよ」
 神職一家が住まう社務所へと、私は足を向けた。





いよいよ、問題の人物登場

つづく

喜右ヱ門 1

 両側を雪に挟まれた幅2メートルくらいの坂道へと、杉林を出る。
 緩やかに登る坂上には古びた小さな拝殿がある。

 神社の境内に私は住んでいた。

 神職の家族ではない。否、外面からすれば家族だろう。

 私は四年前に両親を亡くし、身寄りがなかった為に、住んでいた村の神社の宮司の養子となった。
 養子と言っても、身元引き受けの意味合いが強い形上の縁組だ。家族らしい交流もないまま、物による生活の世話だけを受け、あてがわれた境内の家屋で一人暮らしをしている。

 拝殿の隣にはその五倍はあろうかという二階建ての建物がある。神職一家が住まいにもしている社務所だ。

「光希様ぁ」
 庭のように広い社務所の前で雪掻きをしていた少年が、のんびりとした声で呼ばわった。風邪で寝込む前と変わらない朝だった。
「もう起き上がっても大丈夫で?」
 駆け寄り手を握ってきた彼の手を、私は握り返す。私にとっては、声や光などで分るよりも、そこに居るという事が分かる確実なもので、ほっとする。
 少年は小柄で、名を、斎喜右ヱ門(さい きうえもん)と言う。刺々しい空気もなく、警戒心もない、素朴な雰囲気が基調だ。少年と言っても、同年齢である。

「もう大丈夫だよ。参道の雪掻きをさぼって済まない」
「なんの。起き上がれるようになって良かったの。丈夫でないお体は承知しとります」

 私の幼馴染であると同時に、彼は神社で神奴(かみやっこ)と呼ばれる役職に就いている。
 代々斎家が引き継いできた役職で、彼とその祖母は社務所に住み込みで神社の予定の管理や雑役の奉仕をしている。
 杉林の坂道は参道で、毎朝の雪掻きは私と喜右ヱ門の日課だった。

「寝込んでいる間に何か変わった事は?」
「あ、今日から、余所からの氏子が入りますでの」
「今期初めてだね」
「我(わ)ぁ、明日から他の雪掻きに回ります。光希様はその人に参道の雪掻きサぁ、その他色々教えてやって下さい」

 余所から奉仕を申し込む者がいて、それを神社は受け入れている。
 二月の半ばの今は、正直、雪掻きの手はいくらあっても足りないくらいで、奉仕を申し込んでくる者は有難かった。

「何ぞ困った事がありましたら、この喜右ヱ門に言って下さいの」
「有難う。喜右ヱ門」
 神職一家とは家族であっても離れて暮らしているので、私には社務所の敷居は高く、こうして気軽に接し気遣ってくれる喜右ヱ門の存在が心の支えにもなっていた。





エモンには秘密が多く、要注意☆

つづく

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