神が泊まる村

蓋を開けたのは誰?  陰(いん)の闇が溢れた。 長編小説連載中。

光を見る目

 雨戸を閉めると、途端、八畳一間の家中が暗くなった。

 電気も点けず、私は白いシャツとズボン、無地のセーターに着替え、洗面所に立った。
 いつもの行動。
 いつもの服装。
 鏡が鉛色で顔が見えない。
 それもいつもの事。
 
 私は目が見えなかった。
 全く見えないという事ではなく、物の形という形が分らない程度だ。
 目に膜が張ったかのように全てが曖昧で、その為か距離感がなく、唯、物が在るのか無いのかそれは分り、昼と夜の区別くらいは付く。日常に支障をきたす程の弱視かもしれないが、部屋の中は慣れている。
 慣れともう一つ、物が見えない代わりに、他に見えているものがあった。可視によって見えるかなりぼんやりとした物に被さるようにして、可視以外の光が見えていた。

 余人には見えない光。
 森羅万象、石や木、生命を持つ持たないに関わらず、昼も夜も関係なく全てが光って見えていた。
 それも光は一様ではない。
 石は石独特の光があり、木は木の光がある。同じ様に見える二つの石でも、全く違う色の光を放っている事もあるし、同じ種類の動物でも、やはり光彩や光量が違うので、個々の判別も付く。
 差異は全て微妙だが、それも慣れである。慣れれば、間違った事などなかった。

 人に対してもそれは同じで、先程の少女は名前の通り、淡い桃色の光体として見えていた。それでなくとも、判別するだけならば、人間は他の何よりも簡単で、誰であるかすぐ分る。他の物と同様、光も個人によって違うが、一番の決め手は声である。声と、その人物が身に纏う雰囲気が、判別の材料になるのである。
 勿論、人の声や雰囲気などは、その時々で違うのであるが、それも、その場の状況に起因する事が多いだろう。個人の大まかな性格さえ知れば、誰がどんな時にどんな声でどんな事を言うのか分り、それこそ声や雰囲気、ましてや私にしか見えない光にも頼らずに、すぐに誰だか分ろうと言うものだ。

 鉛色の鏡を、見るともなしに見詰め、手で顎を撫でた。
 髭が濃くなってきたら剃るのが難しいな。
 困る事といえばそれくらいだ。幸い、剃る必要もない薄い産毛しか生えていない。しかし、それはそれで、思春期には重大な悩みだ。

 壁時計が七時の鐘を打った。

 身嗜みを整えた私は、家を出た。
 天蓋の杉の間から日の光が差し込む林の中。日の光が雪面に反射して明るい。
 少女が置いていった梅の枝は、玄関脇の雪に刺しておいた。それを手に、雪面の道を上がった。





主人公の目の見え方の説明となりました。
次回は、エモンこと、喜右ヱ門(きうえもん)の登場

つづく

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