試行錯誤記事一覧
2006-02-28
連載当初、大きく構成を変更したりしまして、投稿した後に改稿したりしてました。
(読んで下さっていた方を振り回してしまったと反省するばかりです……)
でも、まあ、治してしまったのは仕方ない。
頂いたコメントを消したくないという理由が第一で記事を残しました。第二は、「こんな試行錯誤があるよ〜ん」と、暴露っぽい感覚で!(←ヤケ)
で、管理人も後々読み返して参考にしたく、
改稿前の記事一覧を作りました。
(題名をクリックするとその記事が開きます)
第一章 先夢−寒椿
先夢−寒椿(視点解剖)'06.12.16追加
先夢の朝1
先夢の朝2
先夢の朝3
喜右ヱ門1
喜右ヱ門2
先触れの梅
神泊村(3)
第二章 牡丹雪の別れ(3)
これ以上増えないよう頑張ってますが、頭の足りない管理人の事だから増えるかも^^;
第四章 椿童子−光希 5 (訂正)
2006-02-11
……いつの間に……。
同じ雪上に現れた人物と目が、合った。
識峰さん……だよ、ね……。
「御歳二十九歳。お優しい方での。気さくに我にも話しかけられ勉強もみて下さる。お顔も優しげで、背は高い方だの」
何かの折、そう喜右ヱ門が話してくれた事があった。
だが、ふら、とした調子で足を進めてくる尋常ではない様子の人物がその人だとは思えなかった。
確かに、喜右ヱ門が憧れをもって話したのが納得いく程、実に見目形が良く、陰のない艶のある肌から年齢より年若に見える。しかし、血の通わぬ死人の肌に似て青白く、凍り付くような冷酷さがその両眼には宿っているように見え、言われ想像していた優しさなど欠片も窺えない。
私は進められてくる歩調に合わせて、ゆっくりと後退った。
冬季が、視界に見えない。姿を求めようと視線を外そうとしても識峰から外せず、声も出ない。目を逸らしただけでも、相手を触発してしまいかねない緊迫感が高まってゆくのが肌で分かった。
……何?……
何の兆候もなく、識峰の顔に笑みが広がり始めた。
まるで長い事待っていた相手に漸く会えた時のような、心底から徐々に湧き上がってくる、そんな笑みに見えた。
……どうして……。
私自身にそんな笑みを向けられる覚えはなく、空恐ろしい笑みでしかなく、体が、がたがたと震え始めた。
雪の壁に、私の背が塞がれた。
ばさ……ばさり……
背後の雪は柔らかく、目の前に白が振り落ちてきた。それに混じって赤い小さな色が鼻先を掠めた。
……狂い咲き……。
私の目が追い、下りた。
雪肌に、赤い赤い、真っ赤な花びらが一片(ひとひら)。
……ああ。何て良く見えるのだろう。
私の意識は足元に集中した。
登場人物質問を投稿しようと思っちょりましたが、一週間も間が……(滝汗)
ここまで空いてしまったら続きが先だろうと、本編を投稿しました。
言葉足りないところがあるかもです。
ぶっちゃけ、まだスランプ。(?)
しかも本日やっと歯医者に行ったら「続けて通って下さい」と二回も念を押され……。
はい。ごめんなさい。続けます。
この記事は一部修正前の記事です。
修正したのは、主に識峰の光希から見た描写のところですね。
修正後の本編はこちらになります。
同じ雪上に現れた人物と目が、合った。
識峰さん……だよ、ね……。
「御歳二十九歳。お優しい方での。気さくに我にも話しかけられ勉強もみて下さる。お顔も優しげで、背は高い方だの」
何かの折、そう喜右ヱ門が話してくれた事があった。
だが、ふら、とした調子で足を進めてくる尋常ではない様子の人物がその人だとは思えなかった。
確かに、喜右ヱ門が憧れをもって話したのが納得いく程、実に見目形が良く、陰のない艶のある肌から年齢より年若に見える。しかし、血の通わぬ死人の肌に似て青白く、凍り付くような冷酷さがその両眼には宿っているように見え、言われ想像していた優しさなど欠片も窺えない。
私は進められてくる歩調に合わせて、ゆっくりと後退った。
冬季が、視界に見えない。姿を求めようと視線を外そうとしても識峰から外せず、声も出ない。目を逸らしただけでも、相手を触発してしまいかねない緊迫感が高まってゆくのが肌で分かった。
……何?……
何の兆候もなく、識峰の顔に笑みが広がり始めた。
まるで長い事待っていた相手に漸く会えた時のような、心底から徐々に湧き上がってくる、そんな笑みに見えた。
……どうして……。
私自身にそんな笑みを向けられる覚えはなく、空恐ろしい笑みでしかなく、体が、がたがたと震え始めた。
雪の壁に、私の背が塞がれた。
ばさ……ばさり……
背後の雪は柔らかく、目の前に白が振り落ちてきた。それに混じって赤い小さな色が鼻先を掠めた。
……狂い咲き……。
私の目が追い、下りた。
雪肌に、赤い赤い、真っ赤な花びらが一片(ひとひら)。
……ああ。何て良く見えるのだろう。
私の意識は足元に集中した。
登場人物質問を投稿しようと思っちょりましたが、一週間も間が……(滝汗)
ここまで空いてしまったら続きが先だろうと、本編を投稿しました。
言葉足りないところがあるかもです。
ぶっちゃけ、まだスランプ。(?)
しかも本日やっと歯医者に行ったら「続けて通って下さい」と二回も念を押され……。
はい。ごめんなさい。続けます。
この記事は一部修正前の記事です。
修正したのは、主に識峰の光希から見た描写のところですね。
修正後の本編はこちらになります。
第二章 牡丹雪の別れ 3 (訂正)
2006-02-10
第二章 『牡丹雪の別れ 3』
紫色部分が、本文では変更してあります。
一郎の父親と光希の父親のやりとりを少し訂正しました。
十一月六日
会わなければ帰らないという一郎の条件を、予め両親が光希の両親に伝えていたらしく、突然、夕食の時に訪ねてきた。しかし、光希ではなく、光希の父親だけであった。
何だ?こそこそと。
父親同士は戸外で話をして、屋内に居る一郎には聞えなかった。辛抱ならず腰を浮かすと、母親がそれを諫めた。
「大人同士の話ですよ」
「何がだよっ。どうせ俺の話だろっ」
母親の手を振り切って戸を開くと、まず父親の拳が頭上に落ちた。頭を押さえて見上げると、穏やかな顔があった。
息子の腕白ぶりが恥ずかしくなったのか、一郎の父親が、
「済まねぇ。この通り、分を弁(わきま)えない子で」
と、一郎の頭に手を乗せ、光希の父親に向かって一緒に頭を下げた。
分とは何の事だ、と思った一郎だったが、殴られた手前、格好がつかなく、す、と頭を下げた。
野分が去った如く、ふっ、とした清(すが)しい笑顔を、光希の父親はした。
「否。初音君。元気なのは、この子の宝だ。それを大事にしてゆくと、良い」
「はははっ。そうか?まぁ、宝、と言うよりは、鉄砲玉、と言った方が近いがな」
「それは君、大変だ」
父親二人は軽やかに笑い合った。
時既に遅し。
話は早くも終わった雰囲気だった。
「何の話をしてたんだよ!」
怒鳴る様にして一郎が訊くと、光希の父親が初めて出会った時のように、膝を落として顔の位置を揃えた。
「明朝、光希を連れてこよう」
「えっ。本当かっ。元気になったのかっ?」
光希の父親は眩しそうな顔をして一郎の頭を撫でた。
一郎は乱暴に頭を振って退かせた。
「何っで、もっと早く下ろしてやらないんだよっ。俺の所為かっ?」
「否。君の所為で、ない」
「じゃあ、この村の所為だっ」
そう言った背中を、父親が蹴った。負けずに蹴り返すと、光希の父親が又、笑った。
「藤仁さん?何しておいででがんす」
突如、庭の出入口から詰問の声が掛かった。村人の内の一人だった。
一郎は少なからず驚いたのだが、光希の父親は平然として、膝の泥を払いながら静かに立ち上がった。
「この方達は明朝、村を去る。その時、光希に会わせようと思う。最後だ。否やはあるまい」
それまでの優しげな雰囲気と比べると、驚く程毅然とした言い様だった。
村人は、へぇ、と気の抜けたような返事をし、その場に正座した。藤仁がこの場を去るまで居るつもりのようだ。その様子だけでなく、一連の遣り取り自体が、一郎には時代劇がかって見え、滑稽に思えた。
父親を見上げると、同じ気持ちなのか、憮然としていた。
「急で済まない」
そう言ってこちらに向き直った藤仁の顔は、本当に済まなそうなものに見えた。
「光希の熱が下がったのが先先日でな。それに、本人がなかなか山を下りようとしない。だが、そちらの為にも早くこの村を出た方が、良い」
「ああ。分ってる。そちらにも事情があるんだろうさ」
一郎の父親が、怒気の籠った息を大きく吐きながら仕方なさそうに応えた。
藤仁は寂しそうに微笑んだ。
「詳しい事情は、さっぱり分らねぇが……」
一郎の父親は真面目な顔をして藤仁に言った。
「あんた、一家でこの村を出る気はないのか?」
「藤仁様っ」
正座していた村人が慌てて腰を浮かして叫んだ。
「てめぇは黙ってろっ」
一郎の父親が激しく一喝すると、村人は驚き、怯んだ。そして何とも恨みがましく睨め付けた。一郎の父親はまるで頓着せず、気遣うように、傍から見れば恐ろしい顔で、藤仁の反応を待った。
藤仁は眼を閉じていた。
「その温情は、有難い。……だが、これも己で蒔(ま)いた種なのだ。未(いま)だ、遣り遂げねばならぬ事が、ある」
落ち着いた声であったが、梃子でも動きそうもない意思を窺わせる口調だった。
一郎の父親がやるせなさそうに怖い顔を顰(しか)めた。
藤仁は笑った。
「有難う。君達一家の事は、忘れない」
「……そうか」
一郎の父親は片手で乱暴に頭を掻き、握手の手を差し出した。が、すぐに引っ込め、ズボンの尻で汚れを拭う仕草をした。再度差し出す前に、藤仁が先に手を出した。
「元気で」
「ああ。そちらも」
父親同士は、固い握手をし合った。
その手の下では、一郎が憤然と腰に手を当てて立っていた。
さっぱり分らねぇなっ。何がどうなってんだっつーのよ?
状況が全く飲み込めない一郎だったが、村人が思わず藤仁を様付けで呼んだ事により、村八分のような目にあっていた光希の父親は実は、下に置かない存在であった事が分った。そして、明日の朝、自分は光希に会え、この訳の分らない村に光希を置いて帰る事、何よりも、大人達の様子から最早、この釈然としない事態が子供の感情のみで変わるようなものではないという事は肌で感じて分った。
珍しくその夜、父親に食って掛かる事がなかった。
一郎が行動を起こしたのは、山を下りてくる光希の姿を見てからだった。
小説を書いていて難しいと思うのは、
「分っているつもり」で書いてしまう事だったりします……。
作者には分っているけれど、読者には分り難かったり。
それに気付かせてくれるコメントは、本当に有難いです。
言葉を貰わなければ分らない事、
気付かない事。
多いです。(←未熟者ですね^^;)
何気ない感想を下さったkazuさん、
ありがとうございました!!
これからも精進してゆきます!!
宜しくお願いします。
紫色部分が、本文では変更してあります。
一郎の父親と光希の父親のやりとりを少し訂正しました。
十一月六日
会わなければ帰らないという一郎の条件を、予め両親が光希の両親に伝えていたらしく、突然、夕食の時に訪ねてきた。しかし、光希ではなく、光希の父親だけであった。
何だ?こそこそと。
父親同士は戸外で話をして、屋内に居る一郎には聞えなかった。辛抱ならず腰を浮かすと、母親がそれを諫めた。
「大人同士の話ですよ」
「何がだよっ。どうせ俺の話だろっ」
母親の手を振り切って戸を開くと、まず父親の拳が頭上に落ちた。頭を押さえて見上げると、穏やかな顔があった。
息子の腕白ぶりが恥ずかしくなったのか、一郎の父親が、
「済まねぇ。この通り、分を弁(わきま)えない子で」
と、一郎の頭に手を乗せ、光希の父親に向かって一緒に頭を下げた。
分とは何の事だ、と思った一郎だったが、殴られた手前、格好がつかなく、す、と頭を下げた。
野分が去った如く、ふっ、とした清(すが)しい笑顔を、光希の父親はした。
「否。初音君。元気なのは、この子の宝だ。それを大事にしてゆくと、良い」
「はははっ。そうか?まぁ、宝、と言うよりは、鉄砲玉、と言った方が近いがな」
「それは君、大変だ」
父親二人は軽やかに笑い合った。
時既に遅し。
話は早くも終わった雰囲気だった。
「何の話をしてたんだよ!」
怒鳴る様にして一郎が訊くと、光希の父親が初めて出会った時のように、膝を落として顔の位置を揃えた。
「明朝、光希を連れてこよう」
「えっ。本当かっ。元気になったのかっ?」
光希の父親は眩しそうな顔をして一郎の頭を撫でた。
一郎は乱暴に頭を振って退かせた。
「何っで、もっと早く下ろしてやらないんだよっ。俺の所為かっ?」
「否。君の所為で、ない」
「じゃあ、この村の所為だっ」
そう言った背中を、父親が蹴った。負けずに蹴り返すと、光希の父親が又、笑った。
「藤仁さん?何しておいででがんす」
突如、庭の出入口から詰問の声が掛かった。村人の内の一人だった。
一郎は少なからず驚いたのだが、光希の父親は平然として、膝の泥を払いながら静かに立ち上がった。
「この方達は明朝、村を去る。その時、光希に会わせようと思う。最後だ。否やはあるまい」
それまでの優しげな雰囲気と比べると、驚く程毅然とした言い様だった。
村人は、へぇ、と気の抜けたような返事をし、その場に正座した。藤仁がこの場を去るまで居るつもりのようだ。その様子だけでなく、一連の遣り取り自体が、一郎には時代劇がかって見え、滑稽に思えた。
父親を見上げると、同じ気持ちなのか、憮然としていた。
「急で済まない」
そう言ってこちらに向き直った藤仁の顔は、本当に済まなそうなものに見えた。
「光希の熱が下がったのが先先日でな。それに、本人がなかなか山を下りようとしない。だが、そちらの為にも早くこの村を出た方が、良い」
「ああ。分ってる。そちらにも事情があるんだろうさ」
一郎の父親が、怒気の籠った息を大きく吐きながら仕方なさそうに応えた。
藤仁は寂しそうに微笑んだ。
「詳しい事情は、さっぱり分らねぇが……」
一郎の父親は真面目な顔をして藤仁に言った。
「あんた、一家でこの村を出る気はないのか?」
「藤仁様っ」
正座していた村人が慌てて腰を浮かして叫んだ。
「てめぇは黙ってろっ」
一郎の父親が激しく一喝すると、村人は驚き、怯んだ。そして何とも恨みがましく睨め付けた。一郎の父親はまるで頓着せず、気遣うように、傍から見れば恐ろしい顔で、藤仁の反応を待った。
藤仁は眼を閉じていた。
「その温情は、有難い。……だが、これも己で蒔(ま)いた種なのだ。未(いま)だ、遣り遂げねばならぬ事が、ある」
落ち着いた声であったが、梃子でも動きそうもない意思を窺わせる口調だった。
一郎の父親がやるせなさそうに怖い顔を顰(しか)めた。
藤仁は笑った。
「有難う。君達一家の事は、忘れない」
「……そうか」
一郎の父親は片手で乱暴に頭を掻き、握手の手を差し出した。が、すぐに引っ込め、ズボンの尻で汚れを拭う仕草をした。再度差し出す前に、藤仁が先に手を出した。
「元気で」
「ああ。そちらも」
父親同士は、固い握手をし合った。
その手の下では、一郎が憤然と腰に手を当てて立っていた。
さっぱり分らねぇなっ。何がどうなってんだっつーのよ?
状況が全く飲み込めない一郎だったが、村人が思わず藤仁を様付けで呼んだ事により、村八分のような目にあっていた光希の父親は実は、下に置かない存在であった事が分った。そして、明日の朝、自分は光希に会え、この訳の分らない村に光希を置いて帰る事、何よりも、大人達の様子から最早、この釈然としない事態が子供の感情のみで変わるようなものではないという事は肌で感じて分った。
珍しくその夜、父親に食って掛かる事がなかった。
一郎が行動を起こしたのは、山を下りてくる光希の姿を見てからだった。
小説を書いていて難しいと思うのは、
「分っているつもり」で書いてしまう事だったりします……。
作者には分っているけれど、読者には分り難かったり。
それに気付かせてくれるコメントは、本当に有難いです。
言葉を貰わなければ分らない事、
気付かない事。
多いです。(←未熟者ですね^^;)
何気ない感想を下さったkazuさん、
ありがとうございました!!
これからも精進してゆきます!!
宜しくお願いします。
神泊村3(訂正前)
2006-02-09
ちょっと訂正するつもりが、ちょっとイメージが変わったかな、と思い、試行錯誤記事に載せる事にしました。
訂正前は以下になります。
カーン カーン カーン
半鐘の音が微かに鳴り響いてきた。
三つ。
社に村人を呼び集める鐘の音だ。
「何の合図かな」
丁度、私の話が終わり、男性が訊いてきた。
「禊の時間なのです。禊斎が始まると、神事期間が終わる迄、村人に居る者は全員決まった時間に沐浴を行います」
説明している内にも、宿泊所の管理をしている年配の男性が奥の部屋から出てきた。
大広間に居る参詣者全員に同じ説明がされた。村人達全員が神社で禊を行う事、自分も向かう事、そして、参詣者も全員、宿泊所の浴場で沐浴をする事。禊が終わる時間が参拝希望者の到着時間と重なる頃なので、ここで私は禊を済ませる事を年配の男性に言った。
「え」
年配の男性だけでなく、私と話をしていた参詣者の男性も意外そうな声を出した。
「村の者は一人残らず神社で行う決まりになっています」
「それならば……。到着を済ました後に神社で行います」
「皆、同時に行う決まりになっています」
年配の男性は繰言のように言った。
それを言うなら、宿泊所内のこの統率のなさはなんなのだ。
宿泊所の決まりは、神社は勿論、村人が集まって決める。
所詮、余所者は余所者でどうでもいいという意識の片鱗が感じられ、私も男性と話し込んでしまったので、口にはしなかった。
「さぁ。光希様」
胸の前に手が差し出され、私は後ろに退きたくなるのを堪え、顔を彼に向けて上げた。
「長期間留まる予定の者であるから戸惑わせたくないのです。勝手な事をされては困るでしょう。分って貰うには始めが肝心です。姥様に宜しくお伝え下さい」
差し出した手を声には圧力さえ感じられた年配の男性は、私がそう言うと、渋々といった感で手を引っ込めた。
宿泊所内は、突如指示された禊の用意に向かう参詣者達で、一層騒がしくなった。
このシーンでは何気に苦労してます^^;
指摘されての改稿を以下に載せました。
訂正前は以下になります。
カーン カーン カーン
半鐘の音が微かに鳴り響いてきた。
三つ。
社に村人を呼び集める鐘の音だ。
「何の合図かな」
丁度、私の話が終わり、男性が訊いてきた。
「禊の時間なのです。禊斎が始まると、神事期間が終わる迄、村人に居る者は全員決まった時間に沐浴を行います」
説明している内にも、宿泊所の管理をしている年配の男性が奥の部屋から出てきた。
大広間に居る参詣者全員に同じ説明がされた。村人達全員が神社で禊を行う事、自分も向かう事、そして、参詣者も全員、宿泊所の浴場で沐浴をする事。禊が終わる時間が参拝希望者の到着時間と重なる頃なので、ここで私は禊を済ませる事を年配の男性に言った。
「え」
年配の男性だけでなく、私と話をしていた参詣者の男性も意外そうな声を出した。
「村の者は一人残らず神社で行う決まりになっています」
「それならば……。到着を済ました後に神社で行います」
「皆、同時に行う決まりになっています」
年配の男性は繰言のように言った。
それを言うなら、宿泊所内のこの統率のなさはなんなのだ。
宿泊所の決まりは、神社は勿論、村人が集まって決める。
所詮、余所者は余所者でどうでもいいという意識の片鱗が感じられ、私も男性と話し込んでしまったので、口にはしなかった。
「さぁ。光希様」
胸の前に手が差し出され、私は後ろに退きたくなるのを堪え、顔を彼に向けて上げた。
「長期間留まる予定の者であるから戸惑わせたくないのです。勝手な事をされては困るでしょう。分って貰うには始めが肝心です。姥様に宜しくお伝え下さい」
差し出した手を声には圧力さえ感じられた年配の男性は、私がそう言うと、渋々といった感で手を引っ込めた。
宿泊所内は、突如指示された禊の用意に向かう参詣者達で、一層騒がしくなった。
このシーンでは何気に苦労してます^^;
指摘されての改稿を以下に載せました。
先触れの梅 1
2006-02-08
雪の壁に挟まれた真白な坂の上には神社がある。正面の奥に、古びた小さな拝殿があり、神職一家が住まいにもしている社務所が縦に並んである。二階建てで拝殿の五倍はあろうかという比較的最近建てられた建物だ。
杉林の家は神社の境内の内だった。私は神職の家族ではない。否、外面からすれば家族だろう。
四年前に両親を亡くし、当時十一歳だった私は、身寄りがなく、神主の母親の養子として引き取られた。養子と言っても、身元引き受けの意味合いが強い形上の縁組だ。家族らしい交流もないまま、物による生活の世話だけを受け、あてがわれた境内の家屋で一人暮らしをしていた。
「ねえ、喜右ヱ門」
社務所の引き戸に手を掛けようとしていた彼を、私は呼び止めた。
喜右ヱ門は神社で神奴(かみやっこ)と呼ばれる役職に就いていた。代々斎家が引き継いできた役職で、彼とその祖母は住み込みで神社の予定の管理や雑役の奉仕をしている。すぐ寝込む質の私と神社との連絡役もこなしている。
「あの家(や)に住んでいたり、奉仕する事は、良い事なのだろうか?私も他の氏子と同じように……」
「何言ってんですか。村サ下りる必要は無(ね)」
最後まで言い切る前に喜右ヱ門は察して返した。
「引け目を感じる事はねと、いつも言ってるじゃないですか。いつでもこの喜右ヱ門がついてます。我(わ)ぁ以外に光希様の世話が出来るべ」
私は目が見えなかった。否。全く見えないという事ではなく、物の形という形が分らない程度で、細かな用事を済ます時は喜右ヱ門の手助けを借りていた。
程度と言うと軽く思われるが、重度の部類に入るだろう。目に膜が張ったかのように全てが曖昧で、その為か距離感がなく、唯、物が在るのか無いのかそれは分り、昼と夜の区別くらいは付く。そんな程度である。こんな私が一人暮らしで日常に支障はないのか、と思われるだろうが、全てが慣れである。慣れと、もう一つ、私を助ける力があった。
私には通常、可視によって見えるかなりぼんやりとした物に被さるようにして、可視以外の光が見えていた。
余人には見えない光。森羅万象、石や木、生命を持つ持たないに関わらず、昼も夜も関係なく全てが光って見える。それも光は一様ではなかった。石は石独特の光があり、木は木の光がある。同じ様に見える二つの石でも、全く違う色の光を放っている事もあるし、同じ種類の動物でも、やはり光彩や光量が違うので、個々の判別も付く。光の差異は全て微妙だが、それも慣れである。慣れれば、間違った事などなかった。
判別するだけならば、人間は他の何よりも簡単で、誰であるかすぐ分る。光も、他の物と同様、個人によって違うが、一番の決め手は声である。声と、その人物が身に纏う雰囲気が、判別の材料になるのである。勿論、人の声や雰囲気などは、その時々で違うのであるが、それも、その場の状況に起因する事が多いだろう。個人の大まかな性格さえ知れば、誰がどんな時にどんな声でどんな事を言うのか分り、それこそ声や雰囲気、ましてや私にしか見えない光にも頼らずに、すぐに誰だか分ろうと言うものだ。
唯一つ、困る事がある。表情である。喜怒哀楽くらいは、光の様子が変化したり、声の質や雰囲気で分るのだが、人の心理などは、そんなにはっきり分る程区別されている訳ではない。子供でさえ時々訳の分らない雰囲気や光に変化したりする事がある。それは多分、様々な感情が入り混じるとそう言う、何とも言えない様子になるのであろう。大人は更にやっかいである。意図した事ではないだろうが、仮の声、雰囲気、光を用いているだろうと思われる時がある。外面だけでなく、内面から自分を装っていると感じる時がある。そうなると、私などでは、相手が何の意味を含んでそういった態度を取っているのか、見当が付き兼ねてしまう。目の見える者はそんな時、相手の細やかな表情の変化を見て取り、気持ちを汲み合うのだろう。そうした事が私はとことん苦手だった。心とは裏腹の機微の変化を示されていても気付いていないのに後から気付き、ああすれば良かった、ああ言えば良かったと後悔し、悩んでしまう。考え過ぎて逆に単純な行動をされても疑う事を覚えてしまい、気兼ねなく向き合えるのは、驚かす事など一切ない、のんびりとした喜右ヱ門くらいだった。
「喜右ヱ門にはいつも感謝している」
「そんな。当然の事だべ」
喜右ヱ門は又頭を掻いた。
「よう動けね爺婆ばっかりの村だぁ」
「そういう事ではなく、喜右ヱ門が居てくれている事に感謝している」
ひぇっと、まるでひゃっくりのような声を、喜右ヱ門は出した。
「ほんに、今朝は、どうなすったんですか?」
「どうもしないけど。……変かな?」
「こっぱずかしい事サ、突然言うのはいつもの事だけんど」
いつもとどこか違うと、喜右ヱ門はしきりに繰り返した。
今朝初めてみた夢と、その夢に出てきた少年であろう男に再会した所為だろうか?
いつもの如く考え込んでいると、そっと手を取られた。
「喜右ヱ門?」
「何か悩み事サあれば、言って下さい」
「悩みなんて……」
体温が私と余り変わらない、しっくりと馴染む喜右ヱ門の手に、ほっと安心した。
鈴木一郎とは初対面ではないらしい事を話すべきだろう。
「実はね、喜右ヱ門」
リィ……ン
微かな鈴の音が耳に響いた。
童女、再び登場!?
←ぽち、宜しく。
杉林の家は神社の境内の内だった。私は神職の家族ではない。否、外面からすれば家族だろう。
四年前に両親を亡くし、当時十一歳だった私は、身寄りがなく、神主の母親の養子として引き取られた。養子と言っても、身元引き受けの意味合いが強い形上の縁組だ。家族らしい交流もないまま、物による生活の世話だけを受け、あてがわれた境内の家屋で一人暮らしをしていた。
「ねえ、喜右ヱ門」
社務所の引き戸に手を掛けようとしていた彼を、私は呼び止めた。
喜右ヱ門は神社で神奴(かみやっこ)と呼ばれる役職に就いていた。代々斎家が引き継いできた役職で、彼とその祖母は住み込みで神社の予定の管理や雑役の奉仕をしている。すぐ寝込む質の私と神社との連絡役もこなしている。
「あの家(や)に住んでいたり、奉仕する事は、良い事なのだろうか?私も他の氏子と同じように……」
「何言ってんですか。村サ下りる必要は無(ね)」
最後まで言い切る前に喜右ヱ門は察して返した。
「引け目を感じる事はねと、いつも言ってるじゃないですか。いつでもこの喜右ヱ門がついてます。我(わ)ぁ以外に光希様の世話が出来るべ」
私は目が見えなかった。否。全く見えないという事ではなく、物の形という形が分らない程度で、細かな用事を済ます時は喜右ヱ門の手助けを借りていた。
程度と言うと軽く思われるが、重度の部類に入るだろう。目に膜が張ったかのように全てが曖昧で、その為か距離感がなく、唯、物が在るのか無いのかそれは分り、昼と夜の区別くらいは付く。そんな程度である。こんな私が一人暮らしで日常に支障はないのか、と思われるだろうが、全てが慣れである。慣れと、もう一つ、私を助ける力があった。
私には通常、可視によって見えるかなりぼんやりとした物に被さるようにして、可視以外の光が見えていた。
余人には見えない光。森羅万象、石や木、生命を持つ持たないに関わらず、昼も夜も関係なく全てが光って見える。それも光は一様ではなかった。石は石独特の光があり、木は木の光がある。同じ様に見える二つの石でも、全く違う色の光を放っている事もあるし、同じ種類の動物でも、やはり光彩や光量が違うので、個々の判別も付く。光の差異は全て微妙だが、それも慣れである。慣れれば、間違った事などなかった。
判別するだけならば、人間は他の何よりも簡単で、誰であるかすぐ分る。光も、他の物と同様、個人によって違うが、一番の決め手は声である。声と、その人物が身に纏う雰囲気が、判別の材料になるのである。勿論、人の声や雰囲気などは、その時々で違うのであるが、それも、その場の状況に起因する事が多いだろう。個人の大まかな性格さえ知れば、誰がどんな時にどんな声でどんな事を言うのか分り、それこそ声や雰囲気、ましてや私にしか見えない光にも頼らずに、すぐに誰だか分ろうと言うものだ。
唯一つ、困る事がある。表情である。喜怒哀楽くらいは、光の様子が変化したり、声の質や雰囲気で分るのだが、人の心理などは、そんなにはっきり分る程区別されている訳ではない。子供でさえ時々訳の分らない雰囲気や光に変化したりする事がある。それは多分、様々な感情が入り混じるとそう言う、何とも言えない様子になるのであろう。大人は更にやっかいである。意図した事ではないだろうが、仮の声、雰囲気、光を用いているだろうと思われる時がある。外面だけでなく、内面から自分を装っていると感じる時がある。そうなると、私などでは、相手が何の意味を含んでそういった態度を取っているのか、見当が付き兼ねてしまう。目の見える者はそんな時、相手の細やかな表情の変化を見て取り、気持ちを汲み合うのだろう。そうした事が私はとことん苦手だった。心とは裏腹の機微の変化を示されていても気付いていないのに後から気付き、ああすれば良かった、ああ言えば良かったと後悔し、悩んでしまう。考え過ぎて逆に単純な行動をされても疑う事を覚えてしまい、気兼ねなく向き合えるのは、驚かす事など一切ない、のんびりとした喜右ヱ門くらいだった。
「喜右ヱ門にはいつも感謝している」
「そんな。当然の事だべ」
喜右ヱ門は又頭を掻いた。
「よう動けね爺婆ばっかりの村だぁ」
「そういう事ではなく、喜右ヱ門が居てくれている事に感謝している」
ひぇっと、まるでひゃっくりのような声を、喜右ヱ門は出した。
「ほんに、今朝は、どうなすったんですか?」
「どうもしないけど。……変かな?」
「こっぱずかしい事サ、突然言うのはいつもの事だけんど」
いつもとどこか違うと、喜右ヱ門はしきりに繰り返した。
今朝初めてみた夢と、その夢に出てきた少年であろう男に再会した所為だろうか?
いつもの如く考え込んでいると、そっと手を取られた。
「喜右ヱ門?」
「何か悩み事サあれば、言って下さい」
「悩みなんて……」
体温が私と余り変わらない、しっくりと馴染む喜右ヱ門の手に、ほっと安心した。
鈴木一郎とは初対面ではないらしい事を話すべきだろう。
「実はね、喜右ヱ門」
リィ……ン
微かな鈴の音が耳に響いた。
童女、再び登場!?
←ぽち、宜しく。喜右ヱ門 2
2006-02-07
杉林の柔雪が私の足の膝辺りまで埋め、喜右ヱ門はもがくようにして坂を上っていた。日の光が明るく差し込み、辺りが大分明るい。
「誰かここサ来たんですか?」
「どうして?」
「足跡サ二つ。行きと帰り」
「ああ、桃花様と喜右ヱ門がさっき言った人物のだろう」
隠すつもりも無いのであっさりと明かすと、喜右ヱ門は驚いた声を出して足を止めた。
私も足を止めて振り返り、言った。
「その者は桃花様がここへ案内した、と言ったが」
「案内?桃花様が?そりゃぁ、偶然でしょうの」
「うん。そう思う。散歩の途中だった桃花様をそいつは追いかけたのだろう。たまたま桃花様の行き先が私の家だっただけだと思う」
「成る程。……その人と何ぞありましたかの?」
何もなかった訳ではなかった。私は内心の動揺を隠して訊き返した。
「どうしてそう思う」
「見ず知らずの人サ、光希様がそいつ呼ばわりするのは珍しいでねか」
言われて始めて私は気付き、罰が悪くなって笑った。
「そうか。いや、私には違う名を名乗ったのだ。初音と」
「ふ〜ん」
喜右ヱ門は私を窺うような様子を見せたものの、姓を偽った男に対しては別段疑う様子もない返事をした。
「訳ありですかの」
「訳あり?」
「ここサ訳ありの人が沢山来ますからの。いちいち本名かなんて確かめね。ご存知でしょう。大体、姓が変わる事サァ、珍しくもね。両親の離婚、養子縁組。変わったばかりならの、うっかり間違うのもあり得るの。光希様もそうでなかったでねか」
「しかし、若い」
喜右ヱ門はカラカラと笑った。
「光希様も若ぇでねか。我(わ)もだぁ。今朝来た人サ何ぞ強情なもん、持ってるでねか?」
私は笑ってしまった。先を促すと歩みを再開して私の脇に並んだ。
「それでさっきは怒ってたんですか?」
「偽名を名乗られたと思ってね」
「いちいち腹サ立ててたら身がもたね」
あっけらかんとして言い切る喜右ヱ門に又私は笑ってしまった。
「どんな事があってものんびりとしている喜右ヱ門が羨ましいよ」
「へへっ」
喜右ヱ門は照れた声を出し、頭に手をやった。
「慌て者ですからの、我はぁ。冷静さと理性をどんな時でも忘れない光希様を尊敬してます」
喜右ヱ門が褒めるような覚えはない。それでも照れで返した。
一段と高い雪の山を越え、除雪された坂道へと降りた。雪の壁に挟まれた道は先程まで居た雪上より暗かった。
次行こう!
←ぽち
「誰かここサ来たんですか?」
「どうして?」
「足跡サ二つ。行きと帰り」
「ああ、桃花様と喜右ヱ門がさっき言った人物のだろう」
隠すつもりも無いのであっさりと明かすと、喜右ヱ門は驚いた声を出して足を止めた。
私も足を止めて振り返り、言った。
「その者は桃花様がここへ案内した、と言ったが」
「案内?桃花様が?そりゃぁ、偶然でしょうの」
「うん。そう思う。散歩の途中だった桃花様をそいつは追いかけたのだろう。たまたま桃花様の行き先が私の家だっただけだと思う」
「成る程。……その人と何ぞありましたかの?」
何もなかった訳ではなかった。私は内心の動揺を隠して訊き返した。
「どうしてそう思う」
「見ず知らずの人サ、光希様がそいつ呼ばわりするのは珍しいでねか」
言われて始めて私は気付き、罰が悪くなって笑った。
「そうか。いや、私には違う名を名乗ったのだ。初音と」
「ふ〜ん」
喜右ヱ門は私を窺うような様子を見せたものの、姓を偽った男に対しては別段疑う様子もない返事をした。
「訳ありですかの」
「訳あり?」
「ここサ訳ありの人が沢山来ますからの。いちいち本名かなんて確かめね。ご存知でしょう。大体、姓が変わる事サァ、珍しくもね。両親の離婚、養子縁組。変わったばかりならの、うっかり間違うのもあり得るの。光希様もそうでなかったでねか」
「しかし、若い」
喜右ヱ門はカラカラと笑った。
「光希様も若ぇでねか。我(わ)もだぁ。今朝来た人サ何ぞ強情なもん、持ってるでねか?」
私は笑ってしまった。先を促すと歩みを再開して私の脇に並んだ。
「それでさっきは怒ってたんですか?」
「偽名を名乗られたと思ってね」
「いちいち腹サ立ててたら身がもたね」
あっけらかんとして言い切る喜右ヱ門に又私は笑ってしまった。
「どんな事があってものんびりとしている喜右ヱ門が羨ましいよ」
「へへっ」
喜右ヱ門は照れた声を出し、頭に手をやった。
「慌て者ですからの、我はぁ。冷静さと理性をどんな時でも忘れない光希様を尊敬してます」
喜右ヱ門が褒めるような覚えはない。それでも照れで返した。
一段と高い雪の山を越え、除雪された坂道へと降りた。雪の壁に挟まれた道は先程まで居た雪上より暗かった。
次行こう!
←ぽち喜右ヱ門 1
2006-02-06
「光希様ぁ」
のんびりとした声と共に戸口が叩かれたのは、雨戸の外を足音が去ってゆくのを聞いた少し後の事だった。
私は普段着である白い上下に着替えて外に出ようとしていた。上着を手に取っただけで戸口に立った。
頭一つ低い、小柄な少年が雪の中に立っていた。名を、斎喜右ヱ門(さい きうえもん)と言う。刺々しい空気もなく、警戒心もない、素朴な雰囲気が基調の少年である。少年と言っても、私と同年齢だ。幼馴染で、尤も親しい友人でもある。
「もう起き上がっても大丈夫で?」
「うん。風邪は治った。昨日もそう言っただろう」
喜右ヱ門はこの家を訪ねる数少ない訪問者の一人だ。殆ど彼と彼の祖母しか訪ねてこなく、それも週に一度あるかないかの回数で、こんなに朝早い時間に迎えに来る事は殆どなかった。
あの男といい、喜右ヱ門といい、どうやら今朝はいつもの朝ではないようだ。
何だろう。何かが動き出している……?
人知では計り知れない大きな力でもって、目に見えない何かが動き出している。そんな予感を抱いた。が、すぐに、馬鹿馬鹿しい、と否定した。
「珍しいね。態態(わざわざ)出迎えにくるなんて」
「予約参拝者の方が予定より早く来まして」
戸を閉めようした手を思わず止めた。
「名前は?」
先程の男かと思って聞いた。喜右ヱ門は違う名前を口にした。だが私は、その名を聞いて眉を顰めた。
鈴木一郎だと?……巫山戯た奴だ!
忠告に従って大人しく帰ったとは思っていなかったが、まさか名を偽り留まっているとは思いもしなかった。
私はじっと閉めたばかりの戸を見詰めた。
鍵を掛けようか迷いが生じた。
手に鍵は持っていない。私は普段から掛けた事がなかった。夜でさえ施錠した事がない。不用心なようだが、盗まれるような高価な品物等、この家屋には、何一つとしてない。それ以前に、ここは山の中の一集落だ。他人の家の物を盗む不心得者など居ないし、掛けない事は信じている証明でもあり、逆に掛ける事は人を受け付けないという表われに取られる。
戸を荒々しく閉め、鍵を掛けずに正面に向き直った。
すぐに追い出してやる!
喜右ヱ門は、体を竦ませていた。
「光希様?」
「驚かせて悪かった。行こう」
おろおろしている喜右ヱ門を促して私は男が下ってきた坂へと向かった。
鈴木一郎に一票を!
←ぽち、宜しく。
のんびりとした声と共に戸口が叩かれたのは、雨戸の外を足音が去ってゆくのを聞いた少し後の事だった。
私は普段着である白い上下に着替えて外に出ようとしていた。上着を手に取っただけで戸口に立った。
頭一つ低い、小柄な少年が雪の中に立っていた。名を、斎喜右ヱ門(さい きうえもん)と言う。刺々しい空気もなく、警戒心もない、素朴な雰囲気が基調の少年である。少年と言っても、私と同年齢だ。幼馴染で、尤も親しい友人でもある。
「もう起き上がっても大丈夫で?」
「うん。風邪は治った。昨日もそう言っただろう」
喜右ヱ門はこの家を訪ねる数少ない訪問者の一人だ。殆ど彼と彼の祖母しか訪ねてこなく、それも週に一度あるかないかの回数で、こんなに朝早い時間に迎えに来る事は殆どなかった。
あの男といい、喜右ヱ門といい、どうやら今朝はいつもの朝ではないようだ。
何だろう。何かが動き出している……?
人知では計り知れない大きな力でもって、目に見えない何かが動き出している。そんな予感を抱いた。が、すぐに、馬鹿馬鹿しい、と否定した。
「珍しいね。態態(わざわざ)出迎えにくるなんて」
「予約参拝者の方が予定より早く来まして」
戸を閉めようした手を思わず止めた。
「名前は?」
先程の男かと思って聞いた。喜右ヱ門は違う名前を口にした。だが私は、その名を聞いて眉を顰めた。
鈴木一郎だと?……巫山戯た奴だ!
忠告に従って大人しく帰ったとは思っていなかったが、まさか名を偽り留まっているとは思いもしなかった。
私はじっと閉めたばかりの戸を見詰めた。
鍵を掛けようか迷いが生じた。
手に鍵は持っていない。私は普段から掛けた事がなかった。夜でさえ施錠した事がない。不用心なようだが、盗まれるような高価な品物等、この家屋には、何一つとしてない。それ以前に、ここは山の中の一集落だ。他人の家の物を盗む不心得者など居ないし、掛けない事は信じている証明でもあり、逆に掛ける事は人を受け付けないという表われに取られる。
戸を荒々しく閉め、鍵を掛けずに正面に向き直った。
すぐに追い出してやる!
喜右ヱ門は、体を竦ませていた。
「光希様?」
「驚かせて悪かった。行こう」
おろおろしている喜右ヱ門を促して私は男が下ってきた坂へと向かった。
鈴木一郎に一票を!
←ぽち、宜しく。