神が泊まる村

蓋を開けたのは誰?  陰(いん)の闇が溢れた。 長編小説連載中。

神泊りの歴史 4

「生まれた子供は男子だった。
神の子だ、と村の皆からも可愛がられ、スクスクと成長した。
八歳になった年の秋、男の子は初めて祭祀に参加する事が許され、大変喜び燥いだ。
神聖な岩に近寄ってはならぬ、と言い聞かされていたのだが、村人達に可愛がられて育った子供だ。岩に取り付き無邪気に、ぺたぺた、と岩の腹を撫ぜた。
その時、その子に神が泊まった。
その子は、子供とは思われぬ大人びた表情で振り返り、村人達は、母親と同じ事が起こった、と驚いた。だけでなく、有難がった。
男の子はその時、別段何もしなかったようだが、何をしなくとも村人達は、祖霊、神が確かに存在する、という確証を得た、のだろう。
男の子を次の祭祀の時にも参加させた。
その次も。次々も。
毎回、神が泊まった。
村人達は、神が泊まった状態の男の子に向かい、必ずそこにお泊りになられる事を願い、村の平和と豊穣を願った。
祭祀に於いて男の子は、岩と同じ扱いをされ、岩以上に大切にされた。
と、言うのも、春の祭祀の時は祀るべき岩が雪の下だ。それ迄は見当をつけた場所で祀っていたのだが、男の子が居る事で、春でも雪の上に祀る対象を得られた。
岩の方も同時に祀ってはいたが、より有難がられた」

 そこで区切り、神社の方に目をやった。

 鳥居からは、誰一人として出てくる様子はない。

 更に視線を上げ、小高い山を見詰めた。
「おい。その先は?」
 一郎が又催促の声を上げた。
「うん……」

 顔を俯き加減にして私は、再び神社に向かい、ゆっくりと足を進めた。
 一郎も私の歩調に合わせ、隣をゆるゆると歩みを再開した。

「そうこうする内に男の子は大人になった。
変わらず祭祀に参加し、神が泊まった。
だが、一つだけ変わった。
神が泊まった状態で男の子は、祭祀に参加していた女性にいきなり乱暴を働いた
。女性は抵抗せず、見ていた村人達も止めなかった。男の子の様子からして、未だ神が泊まっている事が分っていたからだ。邪魔をするのは恐れ多く、どんな怒りを買うかも知れず……」

「待て待て。いきなりっつったか?今」
「無理矢理だ」

「あ?……女も抵抗しねぇって……。一体、どんな状態だったんだ?そいつ。男は」

「口伝されていない。文書にも残されていない。だが相手の女性は、夢をみているような顔をしていたそうだ」

「ふ……ん?そうか。で、又子供が出来たと」

「そうだ。しかし、その女性は、それ迄に何回か夫を持っていたが、子供が出来ない生まず女(め)だった。
その時だけ子供が出来た。
何て事だ、と初めは恐れ戦(おのの)いていた村人達だったが、それを知ると、有難や、に戻った。
男の子の乱暴に目を瞑ったのだな。それどころか、それこそが泊まる神の御神徳だ、と考えた。
それ迄は、泊まりはするものの、他に確たる神徳がなかったから、尚更そこに神の力を感じたのだろう。
……その時から祭祀には、神徳によって子宝を受ける、という目的が新たに加わった。
子供が出来るのは良い事であり、喜び事だ。
ましてや、神泊りの最中に出来た子供だ。
神の子が授かる、と村人達は大いに喜んだ。
それからと言うもの、毎年の春秋の祭祀の時、男の子には女性があてがわれた。
自ら噂を聞きつけた余所の村の生まず女もやって来るようになった。
生まれた子は、全て神泊りの能力を持ち備えていたそうだ。
得られる神徳は女性だけでなく、子種がなかったり精力が衰えたりした男がその祭祀に立ち会えば、たちまち子種が宿り、子供も出来たそうだ。
男の子は、子孫繁栄の霊験あらたかな神の子として有名になった。
村は次第に人口が増え、収穫も多く、栄えていった。しかし、そこだけ栄える、というのは、良しにつけ悪しにつけ、何事か起こる。
争い事が起きるのは時間の問題だった。
村ごと、祭祀場がある山間に移り住む事を、村人達は決意した」

 雪に埋もれた村を振り返り見回した。

「それが、この村だ」
「成れの果て、か」
「果てては、いない」
 言ってから踵を返し、又歩き出した。

「こんな山奥でも、村人達は、神が泊まる男の子とその子供達、祭祀場、両方があれば大丈夫だと考えていたのだろう。
しかし移った頃から、祭祀が一日だけでなくなった」

「神泊りするのが一日だけじゃなくなったってのか?」

「そうだ。
岩の前だけでなく、祭祀場に近寄っただけでも神が泊まるようになり、日にちも延びた。
……かつてからその兆候があったのではないかな。村人達は、それも狙っての移住だったのだろう。何せ神泊りすれば、こんな山奥でも人の出入が途切れる事はなかっただろうし、貢物が沢山村にもたらされるからだ。
始めの男の子が亡くなっても、神泊りの力は、子供達に孫にその孫にと引き継がれていった。そして泊まる神も、村の祖霊や山の神田の神だけでなく、引き寄せられるようにして辺り一帯の村の田の神や、多種多様の神々をも泊まるようになった。
村はそれらの事により、ここいら一帯全ての神々の通り道であり、泊まる場所である。と言う認識の広がりと共に、恐れ尊崇されていった」




「神泊りの歴史5」へはこちら


セリフ中で改行させてあるところがあります。

コメント

うわ〜ん!嬉しいですっ(>_<)

Kikurageさんへ>
小難しい内容だったにも関わらず、ダッシュ☆ありがとうです☆
うわ〜ん(≧д≦)本当に“読めるもの”だったのかと、安心嬉しいです!
口伝の古さ、難しかったので、古さが出ていると言ってくださってまたまた嬉しいっす☆

「段々、神の泊まるのに相応しい人間(器)になって行った」
はっきりと考えていた訳ではなかったので、指摘してくれて漸く頭の中ではっきりしました(>_<)b
言外を汲み取っていただいて、感謝感激です!
コメ返しを書いていたら長くなってしまって、勝手ではありますが
ホームブログ「CIRCUS」の方に別記事を載せました。
管理人自らヴェール脱ぎ脱ぎ。読んでくれると嬉しいですw (直リンク貼ろうとしたら貼れませんでした。プロフィールのところにブログへのリンク貼ってあります(>_<)宜しかったら(^^;ゞ)

次回、成り立ち☆
光希が話しますが、かなりはしょった形で、一郎との会話の中で明かす予定ですv
懲りずにまた来てくれると嬉しいです(^_-)-☆


kazuさんへ>
長い歴史話を読んで下さってありがとうですぅ。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。
堅い話が続き、ミステリーが薄れたかともビクビクしていた小心者^^;
本当にもう、感謝ばかりです!!w
エモンのご先祖様はその女性一筋っす☆今も☆(←え。自主規制かけろよ〜い)
「おでん」笑えましたかw
管理人、書いた時は通常モードでしたが、読み返してみて自分でコケましたw
(コケつつ、訂正しなかった甲斐あり♪)
息抜き出来て良かった♪
「だって。くでん、なんて言葉、普段聞かねぇじゃん」
一郎、ぶつくさ悔しそうに言っておりますv 背中がすごい子供です(笑)
このまま変らず突っ走らせますね!(^^)!

あうっ、つっ続きが気になるでござるよ、c.p殿。
神泊村、ミステリーですね。歴史も。
半死半生だった。エモン君のご先祖様。
とてもその女性を大事にしていたのですね。
その後も脈々と、斎家として神泊・・・女性の血筋に仕えてきたなんて。

「くでん?おでんに似てるな」

いいっ、いいぞ一郎君!
この秘密めいた神秘的雰囲気の中、その言葉!
一気にほんわか雰囲気に戻ったよ(笑

次回楽しみにしています♪

c.pさん、こんばんはです(^▽^)つ♪

前回の訪問から、かなり先の方まで話が進んでいましたので、一気にダッシュ読みしてしまいました〜☆

等々、光希君の口から、神泊村の成り立ちが明かされましたね。
時代は、室町時代にまで、遡るのですね。
口伝の言い伝えの話が、古さを感じました(^0^)
元々、修験者とその付き人の女性が、この地に降りてきた事から始まったのですね。
付き人をしていた女性に神が泊まり、その子孫もまた、神が泊まり、その神が泊まる期間も長くなって行った事を踏まえますと、段々、神の泊まるのに相応しい人間(器)になって行ったという事でしょうか。
そしてまた、その人たちの姓もそのままの表現の通り、いつしか神泊と呼ぶ様になったのでしょうか。
今の、不可思議な神泊村の原点、大変に興味深いもですね(^▽^)

後は、その後の後半の成り立ちですね♪
次回のお話を、楽しみにしております(^▽^)つ

ヴェールを一枚脱ぎました!

あきららさんへ>
飽きなかったでしょうか?と、ドキドキしてました(;つД`)長い説明文を読んでいただいてありがとうございます!!^^
ゾクッとくるほど、女性のその場違いな恍惚とした顔、妖しいっすよね〜♪どうも人間離れ加減な妖しい要素を書くのが好きみたいですv
口伝というのは、大事な事を摘んで伝えているようで、最も大事な事が抜けてそうな、「本当にそれで全部?」みたいな秘密な感じがありますよね。その感じがあったかなと、私、嬉しかったり(^^ゞ
あぅう(>_<)初代の男の子、楽しみにしてくださっているのに、光希が語った口伝しか考えてません〜っ。進化した神事の実態、体験談として第四章で光希に語らせる予定でござりまする。
口伝には足りなかった何かがそこで拾えれば、なんて。気長な内容^^;
また来てください!待ってます!(⌒¬⌒)ノ


待ってました(>_<)
神泊まりの歴史、真相!
襲われてるのに恍惚とした女の顔・・・
そこにゾクッとしたもの感じます。
口伝っていうのが、また、秘密めいてて・・・

最初に神が泊まった男の子、一体どんな子だったのか、その謎も出てくる?
ますますミステリー!楽しみにしてます!

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