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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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養子縁組 4

「……待ってくれ。一遍に訊くな」
 子供のまま大きくなったような一郎の質問に、私は苦笑し、頭の中で反芻した。
「識峰様とは大分、親しくなった」
 興味を強く抱いていると感じられた質問から応えていった方が、良かろうと思った。
 どのように乱暴をした彼と親しくなっていったかを。

「怪我が治った頃には、すっかり春になっていて、私は近くの中学に通学するようになった。不可視の光が見れる事で、黒板の字は読めるようになったが、印刷物の文字が見えなくなり、次第に授業についてゆくのが難しくなった」
 神泊神社の財政は豊かではない。遠い盲学校に通うという話すら出なかった事を、不思議にも思わなかった。地方は教員の数が少なく、小学校でもそうだったが、目の不自由な子供の為に特別な教室を開くこともなかった。

「そこで勉強を見てくださったのが、識峰様だった」

 識峰は大学までいったが、私と同じく熱を出し易い体質で、中途でやめていた。解き方や答えをただ教えるのではなく、答えを導き出せるよう、時間をかけて教えてくれた。

「大した学力の差もなく、他の生徒と机を並べて卒業に至ったのは、根気良く識峰がみてくれたお陰だ。神事の事については、私も識峰様も、触れない雰囲気があった所為もあって、本当の兄弟のように仲良くなった。神事の後で床(とこ)をもらった部屋は、識峰様の自室の隣でね。私は半年くらいそこで寝起きしていて、自由に往来をしていた」

「我(わ)も勉強の際には、御一緒したの」
 ぼそりと呟いた声は喜右ヱ門だ。
 私は、忘れていた訳ではないよ、という意味を込めて、不機嫌に聞こえなくもなかった喜右ヱ門に、微笑を向けた。
「喜右ヱ門は、私の分までノートに細かく書いてくれて、識峰様と私に授業の内容を教えてくれた。逸れずについてゆけたのは、喜右ヱ門のお陰だ」
「我も復習予習になったの」
 喜右ヱ門はそっぽを向いて応えた。
「勉強以外の時でも、よく会われてましたの」
 今度は、確認するような意志が感じられた。
 それにも私は、うん、と応えた。
「識峰様が教えてくださったのは、勉強だけではなかった。村の外の事や自分の事を話してくれ、村と学校しか知らない私の世界を広げてくれた。参詣者とよく話すようになったのは、そうした事があったからだ。それから半年後、この家(や)に移り住んだ。脇に教科書を抱え、毎日変わらず社務所に通った。一人暮らしは、姥様がお決めになった事だが、識峰様も、そうした方が良いと、勧めた」

「そいつも勧めた?どうしてだ?」
 一郎の質問に、また私は苦笑いをした。
 疑問を口にすぐする子供のような訊き様は、言い難い事を言う時は、言い易くなって助かる。

「識峰様の配慮だ。そろそろ秋の神事が始まる頃だった。いつか泊まりがあるか知れないと」

 突発的という事は、今では殆どなくなっている。識峰が、神が泊まるのを察知するようになり、前もって準備が行われる。どの様に察知するのかは、本人のみぞ知る、感覚的な事らしく、はっきりとした説明を聞いた事はない。

「傍目から見て、泊まったと分るのは、稀だ。様子が変だぞと思うくらいで、はっきりそれと分るのは、普段の神主をよく知っておられる方に限られる」
「姥か」
「そう。あの時、識峰様がお一人で山に登られていたのは、泊りが初めてで、すぐにはそれと分らなかったからだろう。始まったら始まったで、受ける受けないの意志は関係ない。近くに居る者が一番、危うい。危険なまた目に遭わせてしまうかもれない。あのような事はもうしない、そう約束してくれたのは、最も危険な場所から遠ざけてくれるという意味だったのだ。一人暮らしを始めて間もなく、姥様から私は、神饌を運ぶ役を任され、神事を担う成員となったものの、姥様の息子達も成員で、荒い神霊だと思われた時には、任が回って来る事はなかった。姥様にそうしてくれるよう、識峰様が頼んで下さったという事が、後に訊いて分った」

「ふ~ん……」
 腑に落ちないような声を、一郎は返してきた。


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