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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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蛇神-光希編 9

「……光希様に我は、秘密を暴いて欲しく無ぇだ……」
 喜右ヱ門がおずおずと口を開いた。
 済まない気持ちで私は微笑んだ。彼が村の問題に目を背けようとする理由に心当たりが一つあった。それでも、何もないのだと、今迄通りの盲目状態に戻る事は出来ない気持ちだった。
「村の因習に囚われない一郎のお陰で、何が大事なのかが、分かった。暴くことを恐れず、突き進む力だ」

「分かった分かった」
 一郎が掌をひらひらとさせて振り返り、何事も無かったかのように火鉢の傍の元の位置に戻った。
「深刻に考えるな。頭が重くなる」
 深刻さを醸し出していたのはお前だと、彼以外の誰もが、思った事だろう。
 居心地悪そうに一郎は、首の後ろを撫でた。

「俺は正直、この村に、馴染めない。余所者だからだろうが何だろうが、感覚的に理解出来ない。客観的な見方しか出来ない」

 ないないない、と繰り返し、だが、と顔を上げた。

「お前達にもおかしいと思う気持ちは、あると、思っている」

 それはそうだ。
 私が応えようとすると、掌を翳(かざ)されて止められた。

「怪我を負わされるかもしれない神事が良い事か?
 そうした神事が行われていると知っていて、反対の声を尚も上げないのか?」

 今更と思える事を一郎は、確認するように喜右ヱ門と冬季に向けて言った。
「お前らが一番おかしいのは、そこだ」
 喜右ヱ門と冬季は黙って俯き気味になった。
「おかしいと思う気持ちから結局は逃げ、従順になってしまっている」

 二人は何も反論しないでいる。
 一郎は、私に顔を向けた。
「一人が犠牲になっても、この村は救われない」
 妙にはっきりとした言葉に、私の心臓が、どきり、と萎縮した。
「俺がお前を犠牲になど、させない。
 まともな神経をもってる奴は、こう、考えるところだ」
 今度は、違う意味で、私の心臓がどきりとした。

「一郎。私は守られ一辺倒に値するような、そのような人間ではない。話を聞いて分った筈だ」
「どうしてそうやって、気持ち的に俺を切り離そうとする」

 恐いからだ。
 喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
 一郎のように恐れも迷いもなく進む者は、そうは居ないだろう。まして己に向かってきていると分っては。
自分でも知らない、どうしようもなく愚かな顔が現れてきそうな気がする。

「お前(め)……」
 思わぬ呼び声があった。
 喜右ヱ門だった。正座の膝に乗せた拳を強く握っていた。

「昼間は居てくれて、正直、助かっただ。だども……」

 一郎は遮る様に言った。
「俺が居なくても今迄、光希に手を出さなかったのは、何故だ?」
 喜右ヱ門の膝の上の拳が更に強く握られた。

「こんな、誰も来ないような家屋に一人で暮らしてるんだ。いくらでもチャンスはあった筈だ。ただの罪悪感や世話焼きだけで我慢していたとは、思えない」
 見張っているようだと、続けた。

「姥ぁは、お前に何て言った?光希に特別な想いを抱いているお前の気持ちを、知っていた筈だ」

 喜右ヱ門の光が黒い溶岩の塊のような光だけに戻った。
 私が身を乗り出し気味に制止しようとすると、一郎はまた掌を閃かせ、制止をかけてきた。そして、分っている、と言った。

「喜右ヱ門にはチヨ婆さまが居る。下手に喋ると、かつての光希のように村中から冷たい目を向けられ、村八分の目に遭う。だから、喋れねぇんだろ」
 俯いていた喜右ヱ門の肩が小さく震え始めた。
 一郎は分っていた。
彼が言った事は、こう思っているのだろうと、まさに私が心配していた事だった。

「我ぁは……、光希様を、救いてぇ……。だども、一つの事を喋れば、全て喋らねばならね。知らなければ良いという事もあるさ……。これ以上は喋れね」

「……喜右ヱ門?」
 訊き返すように私は呼んだ。
 独り善がりだろうか?チヨ婆さまの事もあるだろうが、喜右ヱ門が黙っているのは、私の為でもあるように思えた。
 小さな肩に手を回そうとすると、避けられた。
「喋らねのは、卑怯だ。だども……、勘弁してけろ」
 喜右ヱ門は畳に手をついて下がり、許しを請うように頭を下げた。
 一郎は、分かったと、もう一度言った。

「俺がこの村を変えてやる」

 何をいきがって、とは誰も、言わなかった。
 喜右ヱ門も冬季も私も、心の底では誰もが、そう言ってくれる人が現れるのを待っていたのかもしれない。
 私だけでなく、二人も一郎を見詰めた。

 期待や不安が入り混じった奇妙な沈黙が降りた。
 それを破ったのは一郎だった。
「もうこんな時間か」
 壁の時計を見上げると、零時をとうに回り、1時に近かった。
 喜右ヱ門が、一郎を気にしつつも、朝が早いからと、立ち上がった。
 一郎は止めなかった。
 私の窮状をよく理解してくれている喜右ヱ門が社務所へと帰って行き、私は心細くなった。

「問題は光希だな」

 ひそひそと話す一郎の声が、玄関で喜右ヱ門を見送った私の元に聞こえてきた。
「まともな考えをもっているようで、誰よりもどっぷり浸かっているように思える」
 火鉢の傍に立ち上がり、冬季も向かい合うように立ち上がっていた。
「同感だな」
 冬季も小声で返した。
「さらりと応えるな。お前、ムラッ、とくる気持ちは、分るが……。そもそもお前が、簡単にネジを外すか?」
「気持ちがあるからだろうが、体が引き寄せられている、そんな風に思う。村に帰ってきてからは、それが酷い」
 首の後ろに、一郎は手を当てた。
「光希」
 呼ばれた。
「何?」
 返事をしたが、一郎は玄関脇の壁の方へ歩いていった。
「神事に初めて関わったって言う、その場所に、行ってみようぜ」
「えっ。どうして。山に!?」
 尻込みする私を無視し、壁に掛けてあった上着を一郎は押し付けてきた。
「確かめたい事がある。いいから、来い」
 そう言って、一郎は玄関に下りた。
 私は慌てた。
「駄目だ。禁忌の場所なのだ。あそこは、安易に入っては」
「冬季。連れて来い」
「冬季っ」
 助けを請うように振り返ったが、背後から両肩を優しく掴まれた。
「何か考えがあるのだろう。行こう、光希」

 あれだけの会話で何をっ?

 意気投合した事に驚いたが、疑問が口をつくよりも、恐怖が勝り、叫びに似た声が出た。
「嫌だ!あそこはっ」
「私も、行って、確かめたい事がある」
「何?それは」
 ぐい、と背中を強く押され、応えが聞けそうも無い二人の無言の迫力に、私はやむなく家屋を後にした。

 後になって思えば、私の本当の波乱は、この時から始まった。


 | 目次 | 

別窓 | 第4章 告白→7 蛇神-光希 | コメント:8 | トラックバック:0
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この記事のコメント

■リリーブルーさんへ■
本人にはわかりにくいところのご指摘、ありがとうですv
説明がち、重複がち、そうなのです。
どうも私の悪い癖のようでして、
他の方の文章を読む機会が少ないと、
自分の文章との比較が意思裏にもないようで、気づきにくいところ。
やはり出てしまった…(苦笑)
気付くリリーブルーさん、恐るべし!
てか、そこまで読み込んでいただいて、ありがとうですvフンドシを締め直しますw

先日はご挨拶だけで、
続きを読むを開くと大変なことになる(←自分が)
と思い、読書と感想は自粛させていただきました。
いろいろな意味での後学、いやいや、
文章を書く楽しさを思い出す為にも、
またふらりと立ち寄った時は、よろしくですv
2007-08-23 Thu 22:37 | URL | c,p #-[ 内容変更]
■chachaさんへ
いいぞ!なんて、飢えた猛獣(一郎)に、美味しい餌をw


原作をだいぶ前に書き上げた小説なのですが、
私の中でも、一郎はやっぱり一郎で。
何年か経って、書き直している今でも、
イメージが変わらないといいますか、
ギャップがない、ある意味凄いキャラ。(笑
なので、物語に中の彼の存在を感じていただいて、嬉しいです!!

やっぱり、光希が一番、漬かってますますよね。
原作になかった言葉で、今だから書けた言葉だと思い、
泥沼から光希を助けるテコになれば……。
皆さんの同意が、一郎の力になる!などと、今では思っていたり(^^ゞ
登場人物たちの祈り、ありがとうですv
2007-05-13 Sun 22:47 | URL | c.p #-[ 内容変更]
凄いなぁ、やっぱり一郎は一郎だなぁなんて。
この村にとって、必要な存在だと、本当に思います。
一郎が来たことによって、こうやって、みんな話すことのなかった真実を打ち明けて、心を開け放して・・・
こういうのが本当、大事なことですからね、根本的に見なおすには。
さすが一郎!ちょっとだけなら光希に抱きついてもいいぞ!(勝手に許可するな!笑

みんな光希が心配なんだ。
一番、光希がとっぷり浸かってしまっているように見えるのは、私も同感です。
振り出しに戻って、最初の事件(?)が起こった場所へ。
何か真相が掴めるかもしれませんね。
ドキドキが止まりません><
みんなの無事を祈るばかりです~~!
2007-05-13 Sun 14:36 | URL | chacha #-[ 内容変更]
■kikurageさんへ
おはようございます☆
風の音でよく眠れなかったc.pですv
珍しく、朝のゴミ出しや、新聞をまとめたり部屋の片づけをしたりしてました。
ずっと今週、仕事で休んでいる方がいてへとへとなのに(苦笑)
出勤前にとここを覗いてみたら、コメが!
kikurageさんも仕事の方が忙しいと(記憶しているのですが、記憶違いかしら(^^;)
来てくださって嬉しいです(^^w

創作は時間と気持ちにゆとりがなくては……。
充電期間かな、と、
一ヶ月、半年、一年後でも、再開を待ってます(^^v

感想、ありがとうございますv
一郎は本当に、村人の互いを意識している意識とはかけ離れた思考の持ち主で、好き放題なところがあります。
光希、苦労してます。ついでに管理人も。(苦笑)
行き先を先に決めておかないと、
あらぬ方向に暴走して、
シーンまるごと変更という事が、
未だにしばしばです(^^;ゞ

一郎でしか切り崩せないところ。
これからですv
この小説、いつ終わるんだろう?(←ぇ
ではではwまたきてくださいね(^^w
出勤の時間になりました。
kikurageさんも無理せず、ガンバって☆
いってきま~す!!
2007-05-11 Fri 07:31 | URL | c.p #-[ 内容変更]
う~ん、確かに唯一の余所者で、神泊村との関わりが一番薄い一郎君は、客観的で一番挑戦的(村に対して)で居られる気持ちは分かります。
現に、そのおかげで、村中の人々は一郎君を煙たがっていますよね。
村人なら、その様な行動をすると村八分として爪弾きされる事を恐れる所ですので、元々他人の一郎君は、身分的にやり放題な所がありますね。
それを毎度の事ブレーキをかけている光希君の苦労を本人は理解しているのでしょうか(^^;)

ですが、一郎君の立場でなきゃ切り崩せない事もいっぱいありそうな気が致します。
2007-05-10 Thu 00:29 | URL | Kikurage #-[ 内容変更]
■kazuさんへ
連休明けの昨日と今日、社員が一人休みまして、
一杯一杯に駆け出したい。そんな衝動に駆られているc.pです!

むむむむ胸が、熱くなりましたっ(><)
一郎に怒り一辺倒にさせなかった理由は、そこです!
そこって、どこって、そこです!!
ギャグじゃなく~~~っ(><)

難しい気持ちの問題ですよね。
常識とは、国によって違うし、住んでいるところによっても、
更には、個人個人で違うと。
最早常識とはいえないでしょうが、
「ここではそれが当たり前」ってのは、あると。
……ぁあ、何を言っているんだ、私(苦笑)

一郎には、
「それでも大事にすべき、己の大事があるだろう!」と、
行動をとってもらいたいところ。
kazuさんの声援を受けまして、頑張れ一郎!

この後、彼にしては珍しく遠回りな策略をします。
うふふ~vな展開になり、
三人ともども……。
物語上、後戻りするのは今かなと、
まとめをしておりますっ。
(↑G,Wに終わらせる予定だったのですが;)
(^^;ゞなので、次回は早くても来週になるとですっ。
すまぬ~~~っ(><)

昨晩は遅寝でしたので、早寝しなきゃとですっ。
名残惜しいですっ。寂しかとです(><)
徘徊、しまくりたいですっ。
調整とれるよう、自分のストレスためないよう(笑)
頑張りますよぉおおおおお!!
ありがとう!
本編は少し間があきますが、
明日に向かって、おー(^o^)丿です☆

■楓さんへ
かわぐちひろしって?あああああ!気になるぅうううう!!

はい!そうだ!なのですっ。
一郎のこれからの行動の原動力は、そこにありますっ。
ここまでは、言わば過去に起こった出来事。
これからは、これからになるっす!!
(↑まとめで一杯一杯な空威勢)

一度村から出た、ある意味しがらみのなさが、
冬季の強みですv読み取ってくれて、感謝っす!

c.p:一郎っ。楓さんが応援してるよっ。
一郎:ありがとう!!村を張り切ってかき回すぜ!!
   って、管理人っ!まとめって、何だ!
   早く先に進めろーーーっ。

新緑を揺らす風爽やかになってきた季節v
ますますの発展とご健康を願ってますv

「神泊村」は少し間が空きますが、
よろしくお付き合いのほど、お願いいたしますっ。
夏までには、神泊村もっ。夏までにはっ(><)
2007-05-08 Tue 22:42 | URL | c.p #-[ 内容変更]
あ、あの山にいぐのげーーーーっ!!
な光希君を強引に引っ立てていく二人・・・
誰よりどっぷり浸かっているのは光希君の方だ・・・
そう言った一郎君の言葉に「そうだっ!」です。
禁忌の場所と言って尻込みする。
相も変わらず神事を続ける。
一度外に出たせいか、よほど冬季君の方がポジティブですね。
そして一郎・・・いいぜ、いいぜちみぃっ!!
そのアクティブさがこの村には無いっ!
このしみったれた村を変えるのは君だっ!!
いけーいけーっ
はーつねいっちっろーぉ
いけーいけーっ
はーつねいっちっろーぉ
・・・
かわぐちひろしじゃないですよ。って知らないかwふふんwww
2007-05-08 Tue 20:03 | URL | 楓 #u2lyCPR2[ 内容変更]
一郎くんの行動が、想像していた行動ではなかったけれど、想像以上にとてもすんなりと納得の行く一郎くんで。
c.pさん、うまいなぁとしみじみと読みふけりました。
「おかしいと思う気持ちから結局は逃げ、従順になってしまっている」
一郎君のこの言葉。
凄くいいなぁて思います。
それは。
この村だけの事じゃなくて、私にもいえるなぁって。
生まれ育ってきた環境と価値観の中で、おかしいよなぁっておもうことはあっても、変えようはしない。
変えることさえ頭に浮かばない。
そういうものだと思いこんでる。
ものの大小はありますが、それじゃいけないなぁっておもいました。
神泊村で、光希くんも冬希くんもエモンくんも、幼い頃からその慣習に染まって生きてきているのだから。
おかしいと思うことがまれで、思っても行動には移せないんですよね。
それを、一郎君が変えてやる・・・この村を変えてやる・・・と

一郎君なら、やってくれそうな気がしてきちゃいます!

そして、禁忌の場所へ「何か」を確かめに行くという、一郎君と冬希君。
その確かめたい「何か」とは!!?
ドキドキ明日をまつでござるよ~

・・・・体が引き寄せられている・・・、言われて見たい!!
いいなぁ、光希くん・・・←おばか
2007-05-08 Tue 18:29 | URL | kazu osino #7av6LuR2[ 内容変更]
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