神が泊まる村

蓋を開けたのは誰?  陰(いん)の闇が溢れた。 長編小説連載中。

逢瀬山 1

 外の雪は止んでいた。
 天蓋の杉の枝に降り積もった雪が、音も無くさらさらとこぼれ落ちてくるのが顔にかかるだけで、暗闇が広がっている。
 家(や)を出た私達は、坂の雪面を上った。
 恐らく私だけが見えているのだろうが、一つの足跡を辿りながら。
 社務所へと帰った喜右ヱ門は、床に入ったのだろう。起きている者は居ないようで、明かりのすべてが消えていた。
 そこからは足跡のない雪面を進んだ。
 冬季の案内で、神社の背後にある小高い山へと、向かう。次に一郎が続き、最後尾には私。
 社務所と拝殿とを繋ぐ渡り廊下の下を潜ると、こぢんまりとした建物が、暗い空間になお黒々と現れる。

 居ないのだろうか……。
 神泊処の戸は閉められ、光の一筋もない。
 神事期間が始まっているのだから、識峰が中で待機している筈であるが、無音の静けさだった。

 冷えるな……。今夜は。
 手に息を吐きかけた。
 雪でズボンがすでに真っ白だ。
 堅雪に積もったものが、夜の冷気に因って粉上に保たれていて、一足ごとに張り付いた。
 禁忌の山へと登る緊張もさることながら、神事を初めて受けた場所に再び向かう事に、気が重くなってくる。
 行きたくない。あれから只の一度も足を向けた事はない。
 若干遅れ気味だった私を、冬季と一郎は山へと登る取掛かり口で待っていて、私が先頭に変わった。
 あの夜と違い、今夜は闇夜であるから、足元の注意と、方角を間違わない為に待っていたのだろう。
 春へと向かい始めた山の木々の根元には、根回り穴が開いている。
 
 二人には、辺りが闇ばかりに見えているのだろうが、迷わずに後を付いてきていた。私の雪を割る音や気配から方向の見当が付くようである。それだけ勘が鋭いのだろう。特に足で雪の凹みを探る様子もなかった。

「大丈夫だ。光希」
 冬季が隣に並び、声を掛けてきた。
「神事があって登っているのではない」
 私は無言で頷いた。
承知している。
理性で分っていても、あの惨劇のあった場所へ向かう気分の落ち込みは止めようがない、
「一郎も居る」
「そうだが」
 続く言葉を飲み込む。
「あいつが一番危ないかも、だが」
 苦笑気味に冬季は続け、私も苦笑した。

 昔と比べ、冬季の一郎に対する態度は、随分と変わったものだ。
 相変わらず口数が少ないが、かえって言葉一つ態度一つの変化がよく分り、一郎を信頼しているのがよく分かる。
 宿泊所で彼の話を聞いたと言ったが、良くも悪くも、恐らく開けっ広げな内容だったのであろう。裏表のない彼の性格に触れ、頑なな態度が徐々に崩れ始めているのかもしれない。

「冬季」
「何だ」
彼の水面のような光が、心なしか人懐こい和らいだものに変わった。
いつもと変わりない素っ気無い返事だった。私だけに見えているのだろう変化が、少しだけ嬉しい。

「宿泊所はどう?……楽しい?」
 一郎が来た朝に行ったきりで、約一月の間、どのような様子なのかまるで知らなかった。
「賑やかだな。十五、六人程度が泊まっている。神事の始まったばかりの時期にしては、多いそうだが、今年は春が早いからな。見越して早目に来たらしい」
「……そう……」
 大勢の人と話している冬季など想像しもしなかったが、気さくな面が意外とあるのかもしれない。
冬季の話し振りからそう思え、胸の中がざわついた。
嫉妬。なのかもしれない。
そのような感情が己にあるのかと、自分で驚いた。

「何を訊きたかった?」
「え?」
「家の中での話の前に、皆の意見を聞きたいから話す、と言っていたが」
「そう、だったね。皆に訊き、確かめたかった事があった」
 すっかり失念していた。
「確かめたい事とは。何について」

 私はすぐには応えずに、後ろを振り向いた。
 一郎は少し遅れて登っていた。ああ見えても不案内だからだろうか。夜の雪山が珍しいのだろうか。辺りを見回しながらついてくる。
「冬季。蛇神が泊まった神事の時も、季節が早かった。季節のズレがもしや、神霊に何等かの影響を及ぼしているのでは、と思って……。どう思う?」
「確かに。あの年は春が早かった」
「偶然。かもしれないが……。季の乱れがそれ程でもない年は、神霊も大人しいように感じるのだ。実際、そんな年は特別に変わった事は起こらずに済んでいる」
「ふ……む……」
「喜右ヱ門は、過去の神事の記録を見られる。統計的な意見が聞けると思ったのだが……」
「今年も、……早い」
「どうなのだろう?と言っても、神霊の行動など、計れるものではないが。」

「本当に、居るのだろうか。神霊などというものが」

「分からない」
「だが、光希は、見える」
「何等かの力、と言うのは存在する、と思う。だが、例えば、蛇神……。あれは、私が、そう、見たのだ。要は、どう感じ取るか、ではないかな」
「喜右ヱ門も見ていた」
「何故かは分からないし、断定は出来ないが、その力にも特性や方向性があるのだろうと思う。たまたま私達は、同じように感じ取ったのではないかな。それが何であるか、良いものであるかどうかは、個人の感受性によって違うだろうし、感じる程度にも、差があると思う。そもそも、何等かの力と言った事すら、断定しかねるものだろう」
「そう……、言うものなのか?」
「嫌だな」
 納得しかねるといった冬季の応えに、私は苦笑して言った。
「私は霊能力者などではないし、ましてや、神に愛された者でも、選ばれた者でも、何者でもない、よ。訊かれても、確たる答えは、もっていない、よ」
「そうか。変な事を訊いて済まん」
「否。興味をもって訊いてくれて嬉しいよ」
 冬季のあの夜とは違う態度が嬉しく、私は微笑んだ。

「光希は神に愛されていると思っていた」
「え。まさか。見当違いだ」
「あっさりと否定されるとは思っていなかったな。少しぐらい自覚はあるものだと」
「私はその範疇に入っては、いない……。暗い気持ちを抱えている者は」

 やがて、平面に出た。

コメント

いつでもOK☆

■楓さんへ■
お待たせしました(^^)嬉しいですv
のんびり(過ぎる)更新なので、
お時間のあいた時に来てください!(←懇願:笑)←つか、更新しろ。

ふっふっ(汗)
夏の暑い時期には外れた作風だなぁと、
思っちょりましたが、思いの外、効果大のようで。
鈴虫が鳴り始めた今日この頃w
季節が作品に追いついてきましたv(←追い抜かれる前に以下同文)

何のかんのあっても、マイペースなのか、
c.p節健在ですvありがとうです(^^

まずは復帰おめでと!!
待ってましたよこの時を。
やっとこ今日読みにこれた。嬉しい!!
で、
さっそくうすら寒いシーンからスタートですね。
夏だというのに何だこの肌寒さはぁぁ……chachaさんもおっしゃられているけど、この独特の言い回しというか作風がとかく物語にマッチしてていいですよね。
ああ!
c.p.節健在だ!
ってなことで、早々最新記事に飛びます!

ありがとうございますv

■らんららさんへ■
ナイスタイミング☆
ここまで一気に!ありがとうございます!
長い道のりだったと思います!お疲れ様でしたっ(^^
私も読みに行きたい…。
うぁああああ!!週末バタンキューの私を許して(><;

精神性の怖さv
この物語の舞台背景や、人物背景・風景を考えた時、
まさにそれを描こうと思いました。
光希、管理人の趣味も多少入ってますが(^^;
一郎、ぅぉ。後に言わせようと思っていたセリフを、
らんららさんに言われてしまった。リンクしてますね(^^v
これから先、愛のある神事ができるだろうか?おほほw(!!)
はいv一郎に頑張ってもらいますv
冬季、さりげなく仲間入りしてますvぅふふv

■桜さんへ■
ありがとうです(><
のんびり出来る時に、更新してゆきますv
桜さんも無理は控えてv

まじめに考えているようで、考えていない光希。
て、違うか(笑)
神様なんだろうか、という疑問は、深層的に抱いていますvう〜ん、相変わらず鋭いv
感覚的に説明できない澱が、
かき回された泥沼の泥のように、わき上がってきます。
桜さんにいいヤツと思われた!?冬季。
ピンチな一郎。
いやいや、二人結託して、ある事をしますが、その時は、
「何やってんの」と過ごしてやってくださいv

連載再開おめでとうございます☆
無理をせず、のんびりまったり、ご自分のペースで進めてくださいね。

光希は神や神事について考察し真摯でありながら、
実は神霊の存在に疑問を抱いているのですね。
そんな光希が陰りを帯びてきた分、
冬季がいいヤツになってる…(笑)
一郎ピンチ?

追いついた〜!!

はふ!!
一気に、きました!

まずは、復帰オメデトウございます!
ちょうどいいタイミングにここまで読めました!

はぁ〜。
何で怖いのかと、いつも想っていたんです…BLものはべつに嫌悪感は感じないし、平気なんですが、なんだかとても怖いんです。
光希くんに起こる事々。ここまで読んで、何となく、分かりました。痛々しい、のかな。
光希くんが。
多分、心情的には一郎に一番近い(あ、当たり前ですね…普通^^;)ので、そんなことになっているのに自分に無頓着な光希くんが。痛々しい。そして、それを当然のように扱う周囲が腹立たしい、のですね。一郎以外の人たちの精神性が恐ろしい。
はぁ。あ、でも。冬季くんもちょっと仲間な感じになって嬉しい♪
ホンキで一郎、がんばれ!と。うん。
一郎なら愛のある神事が可能!?がんばれ!

おめでとうございますv

■chachaさんへ■
ご結婚☆おめでとうございますww
知らなくて不義理をいたしました。
いやー、めでたいっv(^^v
夫婦が誕生するってのは、嬉しいですねww
是非、隣の晩御飯に☆って、ちがうか(笑)

暑い夏に涼しさを。
嬉しいですね〜vありがとうですv
少しでも雪山を感じていただき、
クーラーいらずに☆(←無理無理)
季節感ズレまくりと思っていたので、
本当にうれしいですv

関東は、今日は少し涼しいですv
秋の気配がするほど。
気温の寒暖差、加えて環境の変化、
お体にはきをつけてくださいね(^^

わかります?(^^
エモン、すやすやです(笑)
冬季、幸せオーラ出まくりです。管理人を差し置いて。谷に落としたろか。(←あ)
相変わらず自分のキャラをいじめる事が好きな管理人。
いよいよ本領発揮。(←え)

いやいや、物語は微妙なところへと入ってゆくので、
がんばりますv


おぉぉぉ!!!

復帰おめでとうございます!!!><
いやぁ〜本当に嬉しい♪
やっぱりc.pさんの描き方は独特な雰囲気と、丁寧かつ細やかな描写がなんとも上手くて唸ります(笑)
まだまだ、暑い日が続いているというのに、ふっと肌寒く感じました^^さすがです〜☆

そうそう、そうだった。
三人で山に、禁忌の山に登るトコで終わってたんですよね^^
エモンくんは一人外れて・・・今頃すやすやと眠っているのかな?

冬季、確かに昔の冬季とは違う感じしてました。
今の方がとっつきやすいというか(笑)いい光景ですね^^
さて、平面に出たぞ!
いよいよか!!!?><

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神泊(旧・月森) 光希

初音 一郎

神泊喜久枝 (姥様)

斎 喜右ヱ門 (エモン)

月森 冬季

神泊 桃花

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10/28☆犯人を当てよう☆投票開始
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