FC2ブログ

タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告
∧top | under∨

雪椿の場 5

 吃驚する程熱い物で口を塞がれた。物凄い力でそのままそれに後方へと引っ張られ、背中が何かにぶつかり止った。
「ストーップ」
「一郎っ?」
 一郎がすぐ背後に居た。私の口を塞ぎ、もう片方の手で冬季の額を押し返していた。
「何処に居たっ?」
「椿の木の後ろ。隠れるにはもってこいの大きさだな」
「隠れるなど、何故。山から下りたかと思ったぞ」
「居なくなったと思ったから、イチャイチャし始めたのか?」
「イっ?……何を言って」
「完全に身を預けてさぁ。まるっきりそうとしか見えなかったぜ?」
 顔どころか頭部全体が熱くなるのを感じた。
 見抜かれている羞恥と、脳裏に浮かんでいたエモンの事がぐるぐると周り、反論の言葉が見つからなかった。
「当り、だな」

「……一郎。……私は、男が好きなのかもしれない」
 ぶっ、と一郎が噴出した。
 呆気にとられるか、呆れるか軽蔑するだろうと思っていた私の方が面喰った。
「唐突過ぎっ。お前っ」
 腹と手を押さえて笑い崩れている笑い上戸を無視し、私は独り言のように続けた。
「喜右ヱ門の時と同じなのだ。嫌な感じが全くしないというか。安心して緊張が解(ほぐ)れてゆく。二 人の事は嫌いではないが、こういった場合、抵抗しないのはおかしいだろう。明らかに私の方にも問題がある」
 どちらの時も、普段の様子とは違う事に気付きながら、無条件で受け入れてしまえる。
 不思議で、自分でも混乱していた。
「だから、そうなのだと、思う」

「うんうん」
 いまいち納得出来たのか軽く流しているのか分らない相槌を、一郎は打った。
「実験その2」
と言って、おもむろに一郎は私を抱き寄せた。
「……っ」
「どうだ?同じか?」
 一郎の体温は高い。服越しであっても、吃驚する程、高いのだ。
「そんなに緊張するな。体の力を抜いてみろ」
 試みてみるが、出来ない。
「無理だ」
 意図的にしようとするのと、自然と抜けてゆくのは、全く別だ。
 体温が違うというだけで、これ程違うものだろうか。
 ……熱い。
 己とは違う。異質な物への抵抗が、意識の奥からあるように思える。

「じゃ。これは?」
 ぅわぁっ、と魂消た声が私の口から出た。
「お前っ、今、舌でっ?」
 耳をごしごしと何度もこすった。
「すっげぇ反応」
 げたげたとした笑い声が起こる。
「馬鹿か、お前はっ」
「はいはい。とりあえず、男が好きで、誰でも好(い)いって反応じゃぁ、ねぇな」
「妙な事をするからだっ。お前がっ」
「冬季ならいいってのか?」
 ぐっ、と口を噤(つぐ)んだ。
 冬季が何をしようとしていたのかくらいは、いくら経験がない私でも分る。制止がなくあのまま触れていたとしても、抵抗しなかったかもしれない。そう思うと、尚困惑した。
「ま。今のは唐突だったけどな。冬季やエモンの時とは、お前の反応が全然違うってのは分った」
 冬季と普段からそうなりたいと思う気持ちがあれば自然な事かも知れない。だが、そのような事を思った事すらない。何故、反応にこうも差が出るのか。

「これは俺の考えであって、冬季の考えでもあるんだが」
 一郎は打って変わって真面目な声で言い出した。

「濃くも薄くも、神泊の血を持った者同士は、惹かれ合うんじゃねぇのかな。濃ければ濃い程、それが強い。この村に戻ってきたくなる理由と同じだな。意思とは関係なく、体が引き寄せられる」

 こいつはまた突拍子もない事を言い出したと、私は真面目に聞いていた分、肩を落とした。
「体が、などと短絡的な。性別も関係なしにか?馬鹿馬鹿しい」
「冬季に特別な気持ちでもあったのか?」
「否、ない。だからこそ、生理的な事を無視して惹かれ合うという事自体が、納得出来かねると言うのだ」
 そうだろう?と、同意を求めようとした。が、冬季の姿がない。
「あれ?」

 何時からそうしていたのか。平面の端に背を向けて蹲んでいる彼の姿があった。
「放っておいてやれ。あいつはお前に特別な思いがある分、より翻弄されてるみたいだな」
 数秒間、一郎の言葉を反芻し、思い居たって、ぎょっとした。


 | 目次 | 



別窓 | 第5章 逢瀬山→1 雪椿の場 | コメント:0 | トラックバック:0
∧top | under∨
<<雪椿の場 6 | タダ読みたくて | 雪椿の場 4>>

この記事のコメント

∧top | under∨

コメントの投稿

 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック

トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら
∧top | under∨
| タダ読みたくて |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。