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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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雪椿の場 6

 まさか冬季も私と同じ様に。
 驚いている私を余所に、一郎は淡々と話しだした。
「始めは場所に問題があるんじゃねぇかと思ったんだが、そうじゃないらしいな。冬季は、場が違っても変わりはない、と応えたよ」
 だから二人は、考えた付いた事が本当かどうか確かめようと、実験をした。
「さっきの事は俺が提案した事で、冬季は納得済みだった。傍に俺が居るって分っていながらも、途中から完全に理性がふっ飛んだ。どれ程妙な事か分るか?」
「気持を置き去りにして体が引き寄せられてしまう」
 自分一人だけの事ではないとすると、妙に真実味が増してくる。
「冬季の時だけじゃなく、覚えがあるだろう」
「喜右ヱ門の時も……」

「神事の時も、だろう」

 思いがけない指摘に、私の体が固まった。

「神事中、幾ら不敬は禁物ったって、なすがままだったのは、それだけじゃあ、ねぇだろう。神泊の血同士は惹かれ合うが、神泊りした人間には、只単に、同じ血筋相手だという以上に抵抗出来ないんじゃねぇかな。しかも、だ。いつも以上に、敏感に体が反応する。そうだったんじゃねぇか?」
「そのような事は……」
「あるだろ」
 決めつける言葉に、むっときた。

「冬季とくっついてる時ですら、全て許し合った恋人同士のように見えたぜ」
 そう言った声が怒気をはらんでいるように聞こえたが、それに気を割く程の余裕はなかった。
「私が神泊の血を引いている者だとは未だ、確証はない」
「忘れたのか?」
「何をだ」
「月森の姓は、神泊姓の奴がタブーを犯した時の受け皿だって、冬季が言ってただろ。それに、エモンが言ったのを覚えてるか?神泊の血は他の血を負かすって話だ。お前と桃花ちゃんはそっくりだ。あの子は現神主の子供で正真正銘、神泊の人間だ。って事はだ、お前も神泊なんだろう。蛇神だって、泊まったんじゃねぇか?」
「そう決め付けるなっ」

 おぞましいものが身に泊る血を受け継いでいるなどと。
 気持ちを伴わずに惹かれ合うなどと。
 どちらも容易に受け入れられる事ではない。

 月森だった両親。
 村の中でどれ程近しい間柄だったのか?いつから月森に?
 神事には駆り出された事があったのだろうか?
 だとすれば、私は本当に両親の子供か?
 私が桃花とそれ程似ていると言うのなら、私は識峰と近しい繋がりがあるのか?
 そうであるならば私は……。

「悪ぃ。色々いっぺんに言い過ぎたな」
 済まなそうに一郎が言った。
 それでも、一度高ぶった私の感情は治まらなかった。
「ただ俺の目から見て、神泊の連中は皆、色々目に見えない柵(しがらみ)があるように見える。それを自覚して貰って、お前には引き摺られて欲しくなかったんだ」
「お前には分らない」
「……ん?」
「柵だろうと何だろうと、その中で過ごしてきた私の気持ちなど、お前には分らないっ」
「光希?」
「拠り所を失くした私が何を拠り所にしてきたのか。繰り返し来る喪失感と孤独感。受け入れてくれた温もりの記憶一つで乗り越え、安心してきた。それが柵の一つだとしてもお前に否定されたくはないっ」
 一気に捲し立て、肩で息を繰り返した。
「そんなつもりはなかったんだ。光希」
 ご免、とその言葉を一郎が最後まで言い終わらない内に、私は踵を返した。
 一郎が呼びながら追ってきたが、脇目も振らず山を降りた。
 一郎が悪い訳ではない。
 自分が情けなかった。
 溢れ出てきそうになる涙を必死でこらえながら、雪面を駆け降りる。
 社務所前まで来れば、一郎とて声を出して追ってはこないだろう。
 神泊処を通り過ぎ、渡り廊下を潜った。
 ふと、足を止めた。
 社務所の裏口の電灯が灯されている。

 人がっ。
 人工の光の中に人影が一つ。
 白い着物で、ほっそりとした、上品な立ち姿。
「……おいで……」
 私に向かい声だけで招いたその人は、神泊神社の神主・識峰だった。

 同じ敷地に住みながら禁域であるかのように会えなかった相手。
 会いたかった……。
 けれど、この時ばかりは、会いたかったのに会いたくなかったような複雑な気持ちだった。


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