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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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雪椿の場 3

 平面の中心へは進まずに、私と冬季は、端で足を止めた。
 山中にぽっかりと現れた広い空間。
「本当に……雪が低いな。ここは」
 遅れてきた一郎が言った。

 そう。冬の初め程しかない積雪。
「妙な場所だなぁ」
 言いながらも一郎は、ずんずんと平面を見回り始める。
 続いて冬季も見回しながら平面上を歩き始めた。

 ……未だ、誰かを待っているのか……。

 待ち人の為に敢えて整えられた場所のように思える。そして、誰かを待っている為のように感じられた。

 待ち人は来ないだろう。
 誰を、とは分らない。

 この場所は知っている。待ち人は遠くへ去ってしまい、戻らない事を。
 それでも尚、待ち続けている。
……哀しい……。

 幼かった頃は、その感情が分らなく、変、だと思った。
 分らないまま、一人で置いていかれた私は、この場の雰囲気に飲まれ、同調してしまった。
 雪と共に凍って融けなくとも構わないと思い、自虐的な精神状態になった。
 平面の端にある雪の塊もあの夜のままだ。胸辺りしかない高さで、断ち切られたかのように、雪が平らに積もっている。雪の一部を払い除けると、色が現れた。

 赤い、赤い花。
 ……やはり咲いている……。
 同じ場所に立ち、急速に時間が戻ってゆく。
 この花は、この場所の不思議の訳の全てを、知っているのだろうか。

 鮮やかな赤い色。
 ……出会いが、悪かった。
 時を止めたかのような、椿の姿。
 ……粗相をしたのだろうか、私は……。
 花に手を添え、花弁をなぞる。
 肩の痕が切られたように痛んだ。

 私の待ち人は戻ってきた。
 けれど……。
 春が来る。
 神がくる。
 神事でしか繋がりがないのか……。

 未だ哀しさを覚えるのは、大切な人と疎遠な関係になってしまっているからだろう。
 それが今また、この場の寂しい雰囲気と同調してしまっている。
 山頂の方へ顔を向けた。
 この山を越えると、更に高い山へと通ずる。
 何時までも私は。
 積雪が低いのは、只単に雪が溜まりにくい地形なのかもしれない。ただそれだけの事だと、追憶を止めた。

 一郎と冬季が後方で何事かを話し合っていた。
 本当に昔では考えられなかったくらい、仲が良くなった。
 寄り添い、互いに頷き合う様は、気の合うクラスメートのように見える。
「じゃ、よろしく」
 一郎が冬季に言いながら、左耳のピアスを外す仕草をした。
 冷えたのか?
 訊く間もなく、その掌が閃いた。
 あっ?

「光希。悪ぃ。こう暗くちゃ、俺には見えない」
 私に探せと言うのかっ。
 雪の中の金属。普通ならば見付けられるものではないのだろうが、不可視の光を見る目で探せば、すぐに見付け出せる。
 たった一つの異物の光。一郎が立っていた近くの雪の上で冷え切っていた。掌に収めると、冷たくも、確かな存在に、ほっ、と息が出た。


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