FC2ブログ

タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
別窓 | スポンサー広告
∧top | under∨

雪椿の場 4

 ぎゅっと小さな金属を握り締める。
 何故。
「一郎っ」
 捨てる様な真似を。
 彼にとって、幼い頃の約束の印。
 あっさりと放った姿が脳裏に繰り返される。
「えっ」
 振り返った先に、一郎の姿はなかった。
 放棄する気なのだろうか。これを放ったように。話を聞き、私などどうでも良くなったのか……。

「何処に行った?一郎は」
 平らな雪面には冬季しか残っていなく、駆け寄った。
「居なくなるなど、どこまで勝手なっ」
 返事のない冬季を探し放って探しに行こうとすると、腕を掴まれて引き戻された。
「大事か?そんなに」
「そんな事っ」
 決まっている、と言おうとして躊躇した。冬季の様子がおかしい。
 更に腕を引かれ、冬季の胸ぶつかるようにして抱き締められた。
「私では、駄目、か?」
「……痛……いっ」
 しがみ付くように抱き締めてくる腕は、体の自由を奪うだけでなく、まともな呼吸すら奪うものだった。
「私では一郎の代わりにならない、か?」
「ふ……ゆとしっ」
 はっとした身動ぎした後、冬季は腕の力を緩めていった。
 呼吸を取り戻すと共に緊張した体が解けてゆき、伝わる体温の高まりと共に安堵も広がってゆく。
 どうしたというのだろう。
 明らかに普段とは様子が違う。
 離れようとしても、今度は首の後ろを抑えてくる。

「冬季。私にとっては一郎も冬季も数少ない、かけがえのない大事な友人だ。どちらも、どちらかの代わりになどなれないよ」
「そうだな。……分っている」

 不思議と冬季の体温は、緊張を完全に溶かしていった。初めこそ驚いたものの、優しく抱かれていると安堵の方が勝る。殆ど体温が同じなのかもしれない。自分の体がもう一つあって温められているような錯覚に陥る。そのような事は有り得ないのに。
 最近、同じような事があったような……。
 ふっと脳裏にエモンの事が浮かんだ。

「……離してくれ」
 首の後ろの手が離れた。その手が顔の前に回り、顎を取られたかと思うと、冬季の顔だろう静かな光が降りてきた。


 | 目次 | 



別窓 | 第5章 逢瀬山→1 雪椿の場 | コメント:0 | トラックバック:0
∧top | under∨
<<雪椿の場 5 | タダ読みたくて | 雪椿の場 3>>

この記事のコメント

∧top | under∨

コメントの投稿

 

管理者だけに閲覧
 

この記事のトラックバック

トラックバックURL

FC2ブログユーザー専用トラックバックURLはこちら
∧top | under∨
| タダ読みたくて |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。