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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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識峰 3

識峰とまともに向かい合うのは、一年半前の秋の神事以来、初めての事だった。何かと理由をつけて識峰は、私と会う事を避けていた。当時は毎日のように顔を合わせていたのだから大いに戸惑った。自分から理由を訊いたり会いに行ったりした事はしなかった。はっきりと拒まれたらと、そうされる事が怖かったからだ。
嫌われてしまったのだろう。
幾ら曖昧とは言え、識峰にも神泊中の記憶がある事を知っていた。一度ならず二度三度と異常な行為を繰り返せばそうなるのも仕方ないだろうと、諦めと自己嫌悪に任せ、納得してきた。私の方も遠巻きにするようになった。もっとも神事の時は間近に寄る事がある。が、その時既に彼は神泊中であり、彼自身と会うと言うには程遠いものであった。
不安に反し、今、目の前に居る識峰は、嫌うような様子など微塵もないように見えた。

「識峰様」
寛いでいる場合ではない、と、緊張を張り直した。
「本当に済みません。断りもせず山に入ってしまって。お咎めから庇って頂いて、有難うございました。これを飲んだら、私も、家に戻ります」
ふふっ、と笑み声を識峰は零した。
「礼を言われる事ではない、よ。姥様も、怒ってはいなかった。唯、心配していた」
「心配、ですか?」
禁域を荒らされないかという心配だろうか?用もなく踏込む自体が既にそうなのであるから、心配するとは、少し違うように思えた。
識峰は微笑んでいる。余りにも温かな眼差しに、思わず顔を伏せた。
識峰は大人だ。神事中以外の普段は、穏やかな優しい表情を崩さない。裏口で垣間見せた厳しい顔も始めて見たくらいで、いつもは村人に対してのみならず余所者に対しても同じ様に接する。であるから、特に私にだけ優しい目をする訳ではないのだ。
静かな声で識峰は続けた。
「姥様は光希が心配なのだよ。村を出るのではないか、とね」
「えっ。どうして。出ません。先日、姥様にそう、言ったのは、その」
「初音君、と言ったね。以前、光希は彼と良く遊んでいた。その彼を追い出されては気に病むだろう。彼か来た時の二階での騒動は所々聞こえていたよ。光希の声は通るからね。ああ姥様に言ったのも、無理ないと、思う。だからあの後、私からも頼んでおいた。彼を追い出さないように」
私は少なからず驚いた。

「……済まないね」
「え」
「光希に、心細い思いをさせたくなくて、神社に入るように言ったのは、私だ。その私が、光希に会わなくなってから、……大分経つ。……彼を頼るのは、当り前だ」
識峰は少し顔を伏せた。
「あの……、一つ訊いていいですか?ここ一年以上、識峰様は何故」
「会うのを避け続けてきたか。それを知りたいかい」
識峰は膝の上の湯飲みの縁を、ゆっくりとなぞった。
「光希」
「はい」
「神事中の記憶は、朧気ながらある、と話したね?私はね、お前に嫌われたくないのだよ。あんな事をしたのだ。お前に……、嫌悪されたくなかった」
「だって、あれは」
意識の及ばないところの行為だったのだ。
「神霊に体を貸していようと、もうしない、と約していたのだ。私は、それすら守れなかった。光希は、優しい。が、ああいう事は、優しさだけで許せるものではない、だろう。始めは気にしなくとも、その内、軽蔑しだすのではないか、と、それが怖かったのだ。だから、会うのを避けた。しかし……、私の小心な態度でお前を心細くさせていたのでは、本末転倒だね」
「嫌悪などと。てっきり……私の方が嫌われたのかとばかり」
「嫌う?私は光希を嫌いにはならないよ」
当り前のように識峰は言った。


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