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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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識峰 4

「……さ、もう夜も遅い。それとも、もう一杯、飲んでゆくかい?」
私は湯呑を置き、退室の旨を言って立ち上がった。

神事期間中である。本来なら識峰は、決められた人以外とは接してはならない立場にあるし、自身が言った通りに体を休ませなくては成らない。長居をしては良く休めない、と思った。

送り出しに識峰は襖を開いてくれた。
「識峰様」
「何だい?」
一歩部屋を出た所で、私は向き直った。
真正面からまじまじと見る彼の顔は、一年半前どころか四年前と変わらず、若々しい。優しい目と声も。こうして以前もよく送り出してくれた。会わずにいた時間の空白が埋まるような感覚。これで終わりにせず、続けてゆきたいと思った。
「たまに会いに来ていいですか?」
「神事期間が終われば」
「はい」
微笑んで応えると、識峰も微笑み返してきた。
「村人から聞いたよ。参道での、神道講釈」
「あれは。講釈という立派なものではありません」
「「それを聞いた時は嬉しかった。私にも良く話してくれていたね。以前の様に、私も、光希と色々話がしたい。それを光希が望んでくれるのなら、嬉しいよ」
そう言う笑顔が見れる事が私にはとてつもなく嬉しかった。彼だけ、何故、光ではなく姿形が見えるのかは分らない。ただ、彼が喜ぶ事ならば何でもしたいと思う。
「顔に何か付いてるかい?」
見詰め過ぎたのか、識峰が顎の辺りをなぞりながら訊いてきた。
頭を横に振った。
 
私の顔が桃花と似ているというならば、識峰とも似ている所があるのだろうか?

唇を固く結んだ。

「光希に大事な事を教えようか」
それは?と、識峰に意識を戻すと同時、右の耳朶を軽く掴まれた。
甘粕が付いていると、くすくす笑われ、顔が熱くなった。
「ど、どうもっ」
「恐ろしくはないかい?私が」
「いえ?」
眠る様に目を閉じて識峰は、気をつけてお帰り、と言って部屋の内へと向きを変え、すう、と襖を閉じた。
呆然と私は暫くその場に立ち尽くした。
別れ際の彼の様子は、様々な感情が消えて行く様のように見えた。失望、興味の喪失、孤独、それらが霞の中に消えてゆくような、眠りにつくにも似た感覚。
閉じられた襖。

己の力の無さが露見したように思えた。
識峰様の支えに、いつかなりたい……っ。

開けて戻らなかった事が、後悔としてずっと心に残るとは、この時は思いもしなかった。


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