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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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先夢-なごし 1

夢を、見た。
真夜中の訪問者と共に、雪の山中を村に向かった時の夢だ。
この頃、私の目は盲目に近く、余人には見えない光で判別する事は出来なかった。

「光希」
獣道の出口で私を見下ろす黒い影。

高くはないが、低くもない背丈。
歳は、思っていたよりずっと若いように思えた。
家で父と遣り取りしていた時は大人に思えていたが、せいぜい大学生か、もしかしたら高校生かもしれない。道中の身のこなしからの見当である。道とは言えぬ雪道をかなり早く下りてきたので、途中幾度も転んだ。彼が私の手を掴んで放さなかったお陰で、道連れに転んだのであるが、転び方や起き上がり方を身近に感じる事が出来、若者らしい身軽さと敏捷さが窺えたのである。
しかし、それくらいの年齢の知り合いはいない。

「村の人?」
光を目に感じ、反射的に手で塞いだ。
懐中電灯を向けられていた。

道中これ一本で、山を下りてきた。余所者がこんな物一つで方向を間違えずに往復出来るものではない。更には、私の家は村人しか知らなかったので、質問の応えはなかったが、村の者に違いないと確信があった。
だが、村内で今迄に彼を見掛けた事がない。

「もしかして……、なごし、さん?」
声しか知らない村人を連想し、訊いた。
秋の神事の時、昏睡した一郎を見舞ってくれた人物。

懐中電灯の明かりが消えた。肯定の返事に思えた。
ほっと胸を撫で下ろした。彼がなごしであるならば、悪い人物には思えなかった。

村を目と鼻の前にして、なごしは動こうとしなかった。私を連れ出す為に雪の中を急いで来たのであろうに、踏み出しかねている雰囲気であった。
しかし不思議だった。
一体何処に暮らしていたのか。好奇心に負けて訊いてみた。
「なごしさんは何処に住んでいるの?」

「神社」
私は吃驚すると共に、納得した。狭い村であっても、近寄った事すらない場所であった。だけでなく、神泊神社の者は全くと言っていい程、村に下りてこないので、見張ってでもいなければ姿を見る事はないだろう。高校生か大学生であれば、小学の自分とは通学時間も違うであろうから、道ですれ違う事もないかもしれないし、そもそも自分が村に居たがらなかったので、ばったり会う確率も低かったに違いない。

「オレの名を口にしてはいけない」
「どうして?」
「……禁じられた名だからだ。二度と口にするな。でないと、怒りを買う事になる」
何かといえば禁忌禁忌と教えられてきたので、素直に承諾した。

「お前はこれから、神社のお手伝いをするんだ。特に頑張らなくても良い。だが良いか。ヘマはするな」
「うん。分った」
「ヘマさえしなければ、お前は両親と村での暮らしが出来るようになるかもしれない」
「本当っ?お父さんもお母さんも村に住めるのっ?」
思いがけない可能性に、手放しで喜んだ。
なごしの表情は分らなかったが、強く両肩を掴まれ、真剣である事が分った。
「良いか。何が起こってもオレの名は口にするな。そして、自分の心をしっかりと保つんだ」
「分った」

なごしは意を決したように背を向け、村へと歩み出した。
真っ暗な山間の奥に明りが煌々と灯っている。
神社だ。

大分離れてしまった私は、追いかけ、ぶつからんばかりに纏わりついた。私にしては珍しい、人懐っこい行動だった。連れ出された時の恐怖が消えていたからだろう。
なごしが手を握ってきたので、握り返した。
ぎゅう、と握られてくる手が少しだけ痛かった。


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