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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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衝撃 1

「あんた、ちょっと、神泊、光希、さん?」

 宿泊所では、信者達が既に起き出していた。炊事場からは朝餉の準備らしい賑やかな音が聞こえ、大広間のストーブの周りでは何人かが雑談をしている。その内の一人の男性がストーブから離れ、二階へと向う私を、階段の所で呼び止めた。
 一郎を案内してからは、信者とは一切顔合わせをしていない。上下共に白い服を着ていたから神社関係者と見当をつけるのは分るが、フルネームで呼び止めるとは何事だろう。
「私に用、ですか?」

 年上らしい若い男性は、参ったなぁ、と罰が悪そうに頭を撫でた。そして、おももろに、きょろきょろと辺りを見回し始めた。
 信者しか居ない。宿泊所の管理を任されている村人は、神社からの連絡を伝える以外は、定時に用事を済ませにくるくらいで、その時間にはまだ間があった。

「初音から聞いたんだ」
 男性は、悪い噂をする時の様に、小声で言った。
「ここの神社の美人に惚れ込んで来たってよ。宿泊所じゃあ、その噂で持ちきりだよ。あんただろ」
 開いた口が塞がらない、とはこの時の私の状態を言うのだろう。
 信心はどこへ、というよりも、誰かれ構わずぺらぺらと喋ったのだろう一郎に呆れ、美人と自分を同一視され憤慨しもした。陰でだけどねと、面白げに付け足す男性も男性だ。
「あれ。男の子か。君。あれ?じゃ、ここの不思議な目を持つ神童って」
 面倒臭いので笑顔だけで質問に応えた。
「あいつに用があって来たんだろう?怒らないでくれよな。ここは、飲酒厳禁、なんだろう?」
「お酒?ですか。否。厳禁とは、言いません。唯、神事の前は控えて下さい」
「承知してます。先に言っちゃうけど、俺が飲ました訳じゃあないよ?あいつ、俺が持ち込んでんのを知っててさ、酒瓶をね、夕べ遅くに」
「渡したのですか?未青年ですが?」
「強く止めれば良かったんだろうがね。月森君と外から帰ってきたと思ったら、渡せの一点張りで」
「概ね事態は把握しました」
 済んでしまった事は仕方ない。
 男性に再び神事前の飲酒はしない事と二度と渡さない事を頼み、二階へと上がった。
 部屋部屋から興味に駆られたのだろう信者達の顔がのぞいたが、廊下の奥の襖の前に立った。

「一郎。居るか」
 返事がないので襖を開けた。ぷん、と鼻を衝く酒の匂いが廊下に流れ出す。
 どれ程飲んだのだ。
 夜の設定のままなのだろう。汗ばんでくる程暖房を効かしている。窓を開けなくては、と踏み入れた足が何かを踏み、拾い上げた。
 どこにでもあるノートで、中には手書きで、経理の表がびっしりと書かれていた。
 経理?
 部屋を間違えたか?と、顔を上げ、ぎょっ、としてノートを落とした。
 一郎と冬季が一つ布団に寝ていた。体の向きは互い違いであるが、背や足が大きくはみ出し、まるっきり裸であるように見えた。周りには一升瓶とコップの他に、服も脱ぎ散らかされている。
 後退った私の背が半分、後ろの襖にぶつかり音を立てた。

 どれ程動揺しているか自覚できないくらいの衝撃だった。


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