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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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ナゾナゾ 2

何て、鋭い奴なんだ。普段は人の気持ちなどお構いなしのくせに、どうしてこのような時だけ、僅かな心の変化を見逃さず的確に衝いてくるのだ。
「頼りには、している。だが、その件に関しては別だ。識峰様にも立場がある」
「そらそうだろうが。……えらく昨日と態度が違うな。何かあったか?」
「保険証をどうする気だ」
 探られたくないので切り返した。 
案山子の格好を解きながら一郎は、すー、と上体を反らした。ゆっくりと俯き加減に、参道の上に顔を向けてゆく。誰もいないが、怒気の籠った光に変わってゆくのが見え、誰かを睨んでいるように思えた。
「頼むから、騒ぎは起こさないでくれ」
「分った」
 意外にも一郎はすぐに承諾した。

 そして、だから、と話を戻した。
「お前が頼ってる奴も含めて、村に居る者は誰も、疑問に応えちゃくれない。そこで、ちょいとアプローチの方法を変えようと思うんだ」
「どの様に?」
「まだ内緒」
 嬉しそうに言う様子が、怖い。
 言い出したら一郎は人の言う事を聞かない。

 やれやれ、と私は肩を落とした。
それでも、前向きに取り組もうとする一郎の存在が有難かった。

 私は、ズボンのポケットから小さな金属を取り出した。
 返すのが遅れた、と掌を広げて見せると、まだ持ってたのか、と驚かれた。
「要らないか」
「着けて」
 左耳だろう方を向けて甘えてくる。自分で着けろと言っても、着けての一点張りだ。
「小さい物の扱いは……、私は、苦手で」
「ゆっくりでいいさ。急いでない」
 渋々着けてやる事にした。
 ピアスの留め金を外し、落とさないよう一郎に持たせた。顔を触ってから耳の位置を確認し、耳朶を摘む。指先で小さな穴だろうへこみを確認し、ピアスの針を肌に当てた。そこ迄は順調だったが、その先が無理だった。上手くへこみに針の先が当たらないのと、安全ピンで開けた時の血の色を思い出してしまい、手が震えて、とてもじゃないが出来なかった。
「みっちゃんの手、気持ちいい」
「お前……」
 一郎が受け取る仕草をして見せたので渡した。
 預かっていた物を漸く返せた。

 ほっとした時、参道上に男性が立っているのに気付いた。私達からそう離れていないのに気配に気付かなかったのは、一郎の悪ふざけの所為か。
膝丈の長いコートに、革の靴。肩から提げているバックが仕事用に見え、三十代前半だろうと思えた。
 一郎もピアスを着け終えた時に気付き、顔を向けた。
男性は、我に返ったように、長身の背筋を一度伸ばすと、がたがたっと崩れ落ちる様な、おかしな会釈を送ってきた。


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