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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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湯浅 1

 ピアスをネタに光希達がじゃれ合っていた少し前の時間。

 湯浅直行は愛車の四駆を、国道を使い、神泊村へと走らせていた。
 車窓の景色は、白い雪の稜線とその裾にへばりつくように細く長く続く、道脇の雪野原ばかりだ。

 一番近い村落からでも車で二十分は掛かる場所に目的の村はある。徒歩だと、どれくらい掛かるだろうか。傍には鉄道も国道もない。車一台がやっと通れる程の狭い雪道を延々と走り続ける。
 景色が雪と杉の木立ばかりになった。神領であった頃の名残であろうか。黒々としたそこを抜けると、雪野原が又僅かに広がり、遠くに小さく、人家が見えた。

 神泊村だ。

 朝だと言うのに全体が暗い。渓谷にある所為だ。
 杉林を抜けたすぐ脇の、駐車場とは名ばかりの広場に車を停めた。
 鉄筋コンクリート建ての建物の裏にあり、村の一番外れだ。事前連絡で、村内に車を入れてはならない、と言われており、ここに車を停めるしかなかったのだが、遠くに見える鳥居を見て、ゲンナリとした。直線でも百メートル以上はあろう。それでも、言われた事を守らなければ後に支障が生じるので、仕方なく車を降りた。

 湯浅は新聞社に勤める記者で、この地を訪れたのは、神泊神社の取材の為である。
 バブルがはじけ、精神面で混沌とした世間は、ゆっくりとではあったが確実に神道に対しての興味が高まりつつあった。神社の概要だけでなく、人々の興味の対象は、主にその神秘性や不思議に向いている。信仰の底、純真なものに回帰しようとしている現れかもしれない。
 前々から湯浅は、個人の感受性の問題だと考えていたので、記事の担当を任された時、それを大切にした記事にしたいと、取材の許可を求めた。
 だが、新聞社と言っても、地方版の記者で、しかも関東担当である。記事も関東の地方版に連載する予定で、勿論、内容は関東の地元神社を探訪する形で紹介してゆくものである。遠く離れた雪国の、しかもマイナーな神社を取材するというのは、言う迄もなく的が外れている。それは、湯浅自身も承知していた。
「何を寝惚けているっ。大人しく大社の由来や歴史を調べればいいんだっ」
 当然上司も、出張取材に対して好い顔はしないどころか、怒鳴りつけた。
 そこで神泊神社の名を出した。
 湯浅の頭の中にその名はあった。大学時代に一度だけ、教授のフィールド・ワークのお供で訪れていた。神泊神社の神秘性や不思議をその時に体験し、社会に出てからも心の底に残っていた。是非とも地元の神社を訪れる前に、ここを訪れたたいと、この男にしては珍しく強引に、事前取材の事前を申し出た。

 現在の形の固まり過ぎた神社では、決まった形式作法によって神秘性は見えにくく、物足りなく思えた。神道の内でも、民間信仰と呼ばれる部分に於いてが、最も色濃く残っているように感じられ、又、それが人心を満足させるに足るものであると考えていた。
 しかし、民間信仰と冠するからには、個人や村、せいぜい町単位の規模であり、それも現在では薄れゆく傾向にあり、記事の参考にするには説得力が落ちる。民間信仰から発展し尚、その色合いを今でも濃く残し、それなりの大きさの社を構えて厚く信奉されている神社が望ましかった。
 神泊神社の神秘性を探れば、自ずと自分が住む地方の、失われつつある神秘性を見出す参考になるだろう。先方とは、社名と所在地を明かさない条件で、既に取材許可を得ている。そう言って渋面の上司に詰め寄った。取材に要する日数を欠勤扱いの上、締め切りに間に合わなければクビにするぞ、との脅し文句もつけて、漸く許可が下りた。

 一度行った事もあり、事前に調べ尽くしていたので、宿や道路などは改めて調べる必要はなく、すぐに行動に移した。
 問題は当地に着いてからであった。

 何せ謎だらけの神社である。
 大方の神社が神社本庁という宗教法人に包括されているように、ここも法人として認められており、表向きは別に怪しくはない。
 主祭神は、山の神である大山祗神。
 由緒は、良くある御陵信仰をも含む山岳信仰から成る内容。
 社の顔でもある拝殿や本殿は、さる武家が霊験あらたかな神社であるとして寄進し、建てられたものとなっている。
 神事はと言うと、田の神を送り迎える、これ又良くある春秋の祀りで、氏子である村の全員が参加して行われている。
 法人として認められている以上、怪しい事などは何一つとしてない筈である。
 だが、さる武家とは一体何処の誰なのか、社などはいつ建てられたのか、詳細は不明である。
 神事に至っては、門外不出として一切が表にされていない。

 その神事こそが、謎であり神秘的で、湯浅の取材対象だ。
 であるが、事前連絡で、御陵信仰を端にする神社を取材している、としか伝えていなく、それが目的である事を話していない。

 とかくここの神社は外の人間に対して警戒心が強いという事を、知っていた。
 大学教授が相手であれば大抵は協力姿勢を見せるものだが、ここの神社はお決まりの事しか話さず、その時の収穫と言えば微々たるのもで、手名椎命と足名椎命、両神を祀った社がかつてあった、くらいのものである。それも聞いた事のないような知名度の低い神様で、委細は元より、何故祀るようになったかも聞かされず仕舞いで終わった。

 今回、何が収穫出来るのかは、取材態度に係っている。
 宮司なり村人なりから話を聞き出すのは、骨が折れる作業になるだろう。
 分っていた事で、頭を抱える事でもあった。
 フィールド・ワークのつもりで、概要から訊き、掘り下げてゆくつもりだ。

 何事も慎重に。とりあえず、顔合わせと挨拶から済まそう。
 湯浅は手荷物だけを持つと、キーをズボンの尻ポケットに入れ、車を後にした。


 | 目次 | 





この物語はフィクションであり、登場する団体名とは一切関係ありません。
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