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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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湯浅 3

「お早うございます。参拝しにいらした方ですか?」
 男性は、どういう訳か、私が声を掛けても反応を示さなかった。
「おいっ。おっさん。ここに用があって来たのか?」
「あっ、ああ。そうなんだよ」
 一郎が声を掛けると、弾かれたような応えをした。

「神泊神社に用があって来たんだよ。連絡は通ってる筈なんだ」
 年相応の柔らかい声質だった。少し焦りが感じられるが、一郎の強気な訊きようがそうさせたのだろう。
 私は態度を和らげて男性に言った。
「それならば、社務所に案内しましょう」
「あ、うん。助かるよ。そうしてもらえるかな」
 私は微笑んだ。妙な挨拶は、境内で緊張していたのだろう。態度から為人(ひととなり)を、根は優しい質の人間なのであろう、と推察した。
「お前、こーゆー奴が好みなのか?」
 は?と私が一郎に訊き返すのと、足を滑らす音を男性が立てたのは、同時だった。

「大丈夫ですか?」
 私は一郎を無視して男性に向き直った。
 辛うじて膝をつきはしなかったものの男性は、バックを落としていた。拾いもせずに、雪が付いてもいないのにあたふたと体のあちこちを払っているので、拾い上げ、渡した。
「ありがとう。雪の坂は滑りやすいね」
「ふふ。雪のない土地から来たのですか?」
「そうなんだ。降ってもすぐ、べしゃべしゃ、汚いの。積もるなんて事は、年にあるかないかだよ」
「失礼ですが、地元の方ではありませんよね?」
 話し方や内容から、見当をつけ、訊いた。
「あっ。こちらこそ失礼」
 男性は私に名刺を渡した。

 受け取りはしたものの、困惑した。案内をするだけの者に渡す丁寧過ぎる態度にもだが、印刷物の文字が読めない。
「何だ。ブンヤかよ。しかも関東」
 一郎が代わりに読んでくれた。
「湯浅、ちょっこう(直行)?変わった名前だな」
 男性は、なおゆき、だと正した。
 人の名なのだから、それなりに読もうとするだろうに。その通りに読む奴がいるだろうか。
 一郎の、誰が相手でも変わらない態度は筋金入りだ。

「おい。おっさん」
「おっさんおっさんて。さっきから酷いなぁ。これでも未だ、きっかり三十歳だ。そりゃあ、君達から見れば」
「十分おっさんだ。関東のブンヤが何の用で来たんだ」
「勿論、取材だよ。そう言う君は?普通の高校生に見えるけど、信者かな」
「こいつの守護神だ」
 ぽかんとする男性の様子が分った。

 弁解する気も起きなかった私は、男性に分る事だけを教えた。
 一郎の名前を紹介し、高校に行ってない事と、一か月前から奉仕者として宿泊所に滞在している事。
 それらを聞くと男性は、少し考え込む様子を見せた。そして、取材の主旨と、上司の許可を取り付けた経緯までも、事細かく説明し出した。
 今度は私達の方が黙り込んだ。
 男性の取材主旨が神事にまつわる詳細そのものであり、並々ならぬ熱意がある事が分ったからだ。
 話し終えると男性は、私と一郎の出方を待つかのように、じっとしていた。
 どうも、私達が神事に関わっているのではないかと窺っているようである。

 一度訪れた事があるならば、この村の性格もある程度知っているだろうに。
 あのな、おっさん、と一郎が、後ろ頭を掻きながら言った。
「社務所で同じ事言うと、即、追い出されるぞ。神社から、じゃねぇ。村から、だ」
「そうかい?分った。以後、気を付けるよ。有難う」
 忠告が理解出来たのかどうか。男性は社務所に向かい歩き始めた。
 私と一郎は顔を見合わせ、後を追った。


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