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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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姥様の部屋 1

 ドサドサドサッ
 突如起こった大きな音に体が竦んだ。
 雪が枝から落ちたのか……。

 着替える時間も惜しく私は、社務所を出て泥棒の様に身を隠しながら裏に向かっていた。
 窓からは廊下を行き来する姥様の息子達の姿が見える。神饌を調理する厨房と神泊処とを往復しているのだろう。
 自宅待機の命令が出た以上、社務所内に居ては、咎められる。
 一郎は薪運びをしている時間の筈だった。やっとの思いで着いた薪置き場には誰も居なかった。

 宿泊所への待機命令が出たのかな。
 そう思ったが、一抹の不安に駆られた。
 靴を脱いで雪の中に隠し、裏口の土間を窺った。
 こんな事なら、やはり着替えてくるのだった。雪ならば紛れるが、洋服と袴では、袴の方が室内は目立つ。

 息子達の足音の合間をついて手近の部屋の中に入った。部屋部屋を抜け、二階への階段迄来て、 一層気配を消して上がった。
 二階には姥様の息子達、桃花、姥様と部屋といった順で並んでいる。
 誰も居ませんように、と祈りながら、襖越しに室内の気配を窺いながら廊下を進み、最奥の部屋の前に立った。
 襖越しに微かにだが、戸や扉を開け閉めする物音が、絶え間なく聞こえてくる。
 部屋の主ならばまるで家探しの音は立てないだろう。
 姥様、ではないな。

 静かに襖を開け、内に身を滑り込ませ、後ろ手で閉めた。二間続きの奥の間に近づき同じ様に襖を開け、覗き込むと、見慣れた光が居た。水屋箪笥の前に蹲み込み、引き出しに熱心に手を探り入れている。その雑念の無さというべきか、何とその姿の似合う事。私は気配を消したまま、すぐ背後で態と大きく溜息をついてやった。
「みっちゃん……」
 ぴた、と手を止めた一郎は、罰が悪そうな声を出しながら振り返った。
「不法侵入者」
「見逃して?」
 小声で私が言うと、倣い一郎も小声で応えた。私は一郎の左耳に触れ、ピアスを摘み上げた。これには一郎もさすがに痛そうな声を上げた。
「私の為だろうが、罪な事はするな」

 水屋箪笥の一番上の小さな引き出しを外し、一郎に持たせた。
引き出しの奥には、更に扉が隠れている。俗に言う隠し扉だ。簡単な掛け鍵を外して中の扉を開けた。
 そんな作りになってんのか、と一郎が感嘆の声を出した。
「場所を知ってんじゃねぇか。さっきは」
「個人的な物を奥に仕舞われているだろう事は、知っていた。が、詳しく言うと、お前は忍び入るだろう、と思って話さなかった」
「話さなくとも同じじゃん」
 キッ、と私が顔を向けると、一郎は左耳を両手で押さえた。

 保険証だろうケースを引き出した。一郎が私の手から素早く抜き取り、尻ポケットに挿した。だけでなく、私を退かして尚も扉の中を探りだした。
「未だ何か?」
「んにゃ、何かないかな、と思ってさ。あの婆ぁの事だ。色々と隠してんじゃあ、ねぇか」
「馬鹿な事を言ってないで、さっさと扉を閉めろ。何もないだろう?」
 一郎は水屋箪笥を元通りにし、東に向った。
 書庫の扉がある。
 迷う事なく、ガラリ、と引き戸を開けると、中に入っていった。


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別窓 | 第6章 雪催い→4 姥様の部屋 | コメント:0 | トラックバック:0
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