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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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姥様の部屋 2

「ここにある物は姥様に頼んで、一通り目を通している」
 一郎の後について私も書庫に入りながら言った。
 六畳の広さに、奥板の無い書棚が壁の三方と内に数列設けられ、古い書物が平積みにされているだけである。
「滅多に入れない部屋だろ。探検出来る時にしとかなきゃな」
 一郎は手近の一冊を手に取り、ぱらぱらと捲った。
「お前にはプライバシーを侵害しているという考えが全くないのだな……」

「これは何の本だ?」
 私は一郎の脇に立ち、墨で書かれた一文を、目で追った。
 神泊敵ス。××ノ女、男児ヲ得、邑ニ残ル。
 指で辿りながら読み上げた。
「昔の神事の記録だ。前に話した口伝を書き写した本もある。見るか?」
「否、いい。見ても読めねぇ」
「だろうな。漢字ばかりだ」
「墨で塗り潰されている××は何だ?」
「地名だ。明治の頃に、神泊神社の内容を知る近隣の村から、自分達の村の者が関わっている証拠は全て抹消してくれ、と言う掛け合いがあり、その時に全て消したのだと聞いている」
「近隣のヤツらは何で態度を変えたんだ?お前の長い村の歴史の話では、持ちつ持たれつ、だったんだろう?」
 長い話になるが?、と言うと、んじゃいいや、と一郎は説明を断った。
「さ、もう良いだろう。出よう」
 読めない本を未だ捲っている。

「全部目を通したって言ったな。お前と同じ様に噛みつかれた神事の記録はあったか?」
「無い」
「お前が始めてってか」
「恐らくそうではないだろう」
 私は考え込んで口元に手を当てた。

「一年半前の神事と類似した記録はあったが、四年前の神事と類似した事は書き残されていないにも関わらず、姥様だけは、何が起こっているのか分っていたと思う。喜右ヱ門は斎家であるのに、動揺のまま冬季を呼びに行っている。幾ら日頃冷静な姥様でも、初めての事ならば、狼狽えるぐらいしただろう。神事は一番大切な行事であるし、その上神事自体に意味があって、その年の吉凶を知る事も含まれているからな。なのに、一人淡々と指示を出し落ち着き払っていたのは、予め知っていたからだ、と思う。冬季も話してくれただろう?分っていて、向わせたのだ、と」
「ここの他にも書庫があるのか」

「否。無い。これも憶測だが、神事の中でも特に秘事に当たる事は、今もって、口伝されているのではないだろうか。だからこそ姥様が、運営だけでなく、神事の采配を取っていらっしゃるのだろう。実際、神事で何か変わった事があった時は、全て姥様にお伺いを立てている。代々神事を務める神主だけに、秘事中の秘事が口伝されているのではないかな」
「要するに、変事に関する事は婆ぁしか知らねぇってわけか」
「そうなるな」
 識峰様もだろうと言いかけ、口と感情が止まってしまった。
 『逃げられる、とでも……?』
 昨夜の言葉が頭をよぎる。全てを知っていなければ出てこない言葉だろう。
 夜の奉仕に移された事と喜右ヱ門が外された事が改めて重くのしかかる。

「そう言やぁ、神事はどうしたんだ?光希がさぼるわけねぇし」
 一郎が私の襟の前を軽く摘んできた。
 私は山根に言われた事を一郎に話した。
「神事に……出たくない」
「やっぱり、夕べ何かあったろ?」
 きつく唇を結んだ。
「言いたくなきゃいいが……。下手に事を起こすなと言ったのはお前だろ。あんまり思い詰めるな」

 カタン
 書庫の戸が鳴り、私達は、はっとして同時に振り返った。
 くすくすくす……
 桃花が居た。戸に隠れるようにして顔だけを出し、こちらを見て、鈴が転がるような笑い声を立てている。
 居る事に全く気付かなかった。
 姥様の部屋の隣にある彼女の部屋を窺った時は、物音一つしなかったので、てっきりまた雪の中か 社務所のどこかを散歩しているのだろうとばかり思っていた。


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別窓 | 第6章 雪催い→4 姥様の部屋 | コメント:0 | トラックバック:0
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