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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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痣(あざ) 2

 がこ
 後退りした足が積まれた薪に当たって音が立ち、ひやり、と肝が冷えた。
 折角それた二階の姥様の注意を引きたくはない。だが、掴まれている手首も振り解ける力ではなかった。
 何に怒っているかも分らないが、とにかくここは宥めるしかない。
 焦りを押さえて私は、一郎の髪の短い頭を、よしよし、と撫でた。
 功を奏したのか、手首を掴む手の力が緩み始めた。

「何処に行こうとした……?」

 首に唇を押し付けられた感触があり、体を堅くした。
 ……何?
 鈍痛に顔を顰めた。いきなりの事で何をされているか理解出来なかった。着物の合せ目に手が掛けられ、押し広げられた。きつく着付けてあるので喉元が緩むだけで済んだが、肌に熱く湿ったものが這ったのが分った。
 血迷ったのかっ。
 そうとしか思えなかった。胸に顔を埋めている一郎の左耳を探った。
「っ」
 耳を探る手も抑えられ、咄嗟に頭突きを食らわした。さほど反動もつけなかったのだが、一郎は顔を押さえて薪置き場を飛び出していった。
 私は着崩れた着物を直しながら呼吸を整えた。
 顔の熱が引かない……。
 一郎ごときに何を興奮しているのか、と己を叱咤した。彼の行動は全く私には予想が出来ない。
 ……誰か来るっ。
 雪を踏む足音が聞こえてきて、思考から現実に戻った。

 足音は社務所の裏口の方からまっすぐ薪置き場へと向かってくる。一郎かもしれないが他の誰かかもしれない。隠れる場所がないので、薪置き場を自分から出た。
「光希?」
 冬季だった。意外そうな声で、何で……と訊いてきた。
「向こうの雪の上で、一郎が伸びている、が」
「痛そうにしていたか?」
 思わず心配になって訊くと、何があった?と訊かれ、頭突きを食らわした事だけを言うと、冬季は、じっと黙った。罰の悪さを覚え、話題を変えた。
「冬季。学校は?平日だろう?今日は」
「ああ。休んだ。一昨日、否、昨日か。二日酔いで休んだのだが、今朝も、未だ酒が残っててな。起きれなかった」
 薪置き場を飛び出してゆく一郎を見掛けて様子を見に来たのだろうが、冬季で良かった。
「雪駄は?足袋のままで外に出たのか?」
「あっ、そのっ、これはっ。不可抗力というやつだ。うん」
 冬季は小さく笑った。
「社務所に入れ」

 自宅待機の命令が出ていて戻りづらい事を言うと、尚更着替えぐらいした方がいい、と言って冬季は私を裏口へと入れた。
 濡れた足袋を脱ぎ、裸足で土間に入った。
 私を板の間に座らせると、冬季は少し待つように言い、濡れた足袋を持って廊下の奥へと向かった。
 あれほど往復していた姥様の息子達の姿がない。
「神事は一段落して皆、一休みしている」
 冬季が、蒸しタオルを手に戻ってきて、教えてくれた。
 片足ずつ足を拭いた。熱いくらいのタオルが雪に冷えた足に気持ちいい。
「やはり、今年は例年より、早いな。雑用を手伝う口実で様子を見に来たのだ……が……。光希」
 土間に戻っていた冬季が、不意に、私の前に蹲み、左の袴の裾を持ち上げた。
「一郎がやったのか?」


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