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タダ読みたくて

自作小説「神泊村」を連載しているブログです

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温もり 1

 社務所の着替えの間で再び着替えて、普段の服装に戻った。
 表の通用口が見える廊下まで来た時、裏から出れば良かったと後悔した。
 山根が上がり口の板の間に立っていた。
 咎められるのを覚悟した。社務所にぐずぐずと居た事もそうだが、手に持っている靴は隠しようもない。
 山根は、廊下上の私の方に体ごと振り向き、じっと動かず、明らかに私が来るのを待っていた。何を言われるかと緊張したが、靴に気付いた様子を見せたものの、何も言わなかった。
 土間に、湯浅が居た。
 挨拶が長引いたのか、案内した時と全く変わらない手荷物一つだけの姿だった。山根は余所者の手前、黙ったというところだろうか。そして土間には、一郎と喜右ヱ門もいた。
「喜右ヱ門と共に家に戻りなさい」
 皆で溜まって何をしているのか?一郎が何故この場に?訊きたかったが、有無を言わさない口調で追いたてられた。

 喜右ヱ門と一緒に社務所を出た。
 確実に戻るように伴を付けたのは分るが、山根の指示に喜右ヱ門は反対したばかりである。何故彼を?と疑問がわいた。それに予め喜右ヱ門があそこに居た理由も分らない。それを訊くと、喜右ヱ門は、雑用を放りだして私に会いに家に行ったがおらず、慌てて社務所に戻ったところ、通用口で彼らと遭遇し、話に加わっていたと言う。

「光希様……。済みませんの……。山根様を説得出来ませんでしたの……」
 そう言う彼の方が、私より余程参っている。いいよ、と出来るだけ笑顔で応えた。
 山根の指示は姥様の指示で、いくら斎家の者であっても覆るものではない。
 参道の中程まで来て私の家へと入る道の所で、私は足を止めた。
「喜右ヱ門。ここで少し、一郎を待っても良いだろうか?」

 ぎゅ、と手を握られた。
「逃げ……」
 喜右ヱ門の口からかすれ出てこようとする言葉に、私は驚いた。
最後までは紡がれず、手を通して伝わる震えが彼の中の葛藤をはっきりと伝えてきた。
「ここより他に当ては無いし、逃げてもどうにもならないよ」
 出来るだけ深刻にならないよう、笑顔で言った。
 喜右ヱ門は手を離し、触って済みませんの……と力無く謝った。
「始めはそんなつもりはなかったんですの。だけど、四人で話した晩、一郎に言われて自覚したでの。……いつの間にか我は、きっかけを探してたんだ……。しつこい、と思われた事もあったのではないですか?」
 確かにそう思う時もありはしたが、全てがそうではない。
 私は両手で喜右ヱ門の片手を握った。
「喜右ヱ門。幾ら私が不思議な光を見る目を持っていると言っても、それは、目の見える人より確かなものではない。実感がないのだ。触れてくる喜右ヱ門の手だけが、実感があった。確かに居る、という実感がね。両親と一緒に暮らしていた時は、互いに触れ、存在を確かめさせてくれていた。……これまで私が、不確かな世界に迷い込まず、自分を見失わずに生きてこれたのは、触れてくる喜右ヱ門の常の手があったからだ。……大きな手だ。感謝している」
 喜右ヱ門は涙を拭う様に腕を顔の前に上げた。
 人の温もりは安心だけでなく、己が確かにここに居るという事も教えてくれ、居場所も与えてくれる。 彼の手が無ければ、杉林の家で一人孤独に押し潰されて居たかも知れない。
 私は、強く握り返してから、ぽんぽんと軽く叩いて放した。

「どうしてあそこに一郎が居たのか知っているかい?」
「あ……、あの記者さんの手伝いをさせるようですの」
「取材の手伝い?一郎に?」
「これから社務所内の写真撮影をするようでして、機材の運び入れを手伝わせるようですの」
 まずまずの滑り出しを湯浅は得たようだ。
 だが恐らく、社務所止まりの取材になるだろう。
 神事の行われている神泊処や拝殿には入れて貰えずに終わる。幾度かこれまでに訪れた雑誌記者と同じ様に。
 やがて一郎と湯浅が、参道を下りてきた。

「光希も手伝いに来いよ」
「へ?」
 一郎の誘いに、私よりも喜右ヱ門の方が驚いたようで、声を出した。
「エモン。お前は来なくていいや。どうせ光希に重い物持たすなとか過保護になるだろ」
「でも我は光希様を送り届ける役目サあるで」
「あー、そうだな。ちゃんと送り出した事にしておけ。光希が居ないのがバレた時には、知らぬ存ぜ   ぬ、もしかしたら俺が無理矢理連れ出したかもって事にすりゃあ、良い」
 たまには境内の外に出た方が気分転換になるだろ、と一郎は私の腕を掴んで歩きだした。
 宿泊所に行ったからと言って、特別気分が変わる事は無いのだが。言いつけを破ってまで行く理由が分らない。
 手伝ってもらう当人の湯浅は、事態が飲み込めないようで、あたふたと後を付いてきている。
 当然ついてくると思った喜右ヱ門は、分れた場所から動かずに居て、こちらに向かって深くお辞儀をしていた。
 下から見上げるその小さな姿は、かつての両親の姿と重なって見えた。


 | 目次 | 



次回で6章は終わります~。
いや~、長かった……。

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